
1964(昭和39)年・東映(サスペンス)・183分
お薦め度: ★★★★★ 
監督: 内田吐夢 原作: 水上勉
出演: 三國連太郎(犬飼多吉/樽見京一郎) 左幸子(杉戸八重) 伴淳三郎(弓坂吉太郎) 高倉健(味村時雄) 加藤嘉(杉戸長左衛門) 風見章子 (樽見敏子) 進藤幸 (弓坂織江) 加藤忠 (刈田治助) 岡野耕作 (戸波刑事) 菅原正 (佐藤刑事) 志摩栄 (岩内署長) 外山高士 (田島清之助) 河合絃司 (単本虎次郎) 最上逸馬 (沼田八郎)安藤三男 (木島忠吉) 曽根秀介 (朝日館主人) 牧野内とみ子 (朝日館女中) 北山達也 (札幌の警部補) 山本麟一 (和尚) 大久保正信 (函館の漁師辰次) 矢野昭 (下北の漁師) 西村淳二 (下北の巡査) 遠藤慎子 (巫子) 田村錦人 (大湊の巡査) 沢彰謙 (来間未吉) 安城百合子 (葛城時子) 荒木玉枝 (富貴屋のおかみ) 河村久子 (煙草屋のおかみ) 亀石征一郎 (小川) 須賀良 (鉄) 八名信夫 (町田) 久保一 (池袋の警官) 北峰有二 (警視庁の係官) 三井弘次 (本島進市) 沢村貞子 (本島妙子) 高須準之助 (竹中誠一) 藤田進 (荻村利吉東舞鶴警察署長) 鈴木昭夫 (唐木刑事) 関山耕司 (堀口刑事) 斎藤三男 (嘱託医)
水上勉の同名小説を「鮫」の鈴木尚之が脚色「宮本武蔵 一条寺の決闘」の内田吐夢が監督した推理劇。撮影は「路傍の石(1963)」の仲沢半次郎。名匠・内田吐夢監督による日本映画史上に残る不朽の名作。困窮を極めた人間の欲望と運命、そして善悪とは……!? さまざまな人物の人生の変転を複雑な社会機構を背景に巧みに描いた傑作。戦後の混乱冷めやらぬ頃、台風が津軽海峡を襲い、青函連絡船が沈没。だが収容した死体は乗客名簿より2名多かった。転覆事故のどさくさにまぎれた殺人事件の犯人を、老刑事・弓坂は10年に渡って追い続けていた……。心の中に潜む善と悪を描くサスペンス。
【あらすじ】 敗戦間もない昭和22年、青函連絡船・層雲丸が台風の直撃により沈没した。一方、その日岩内町では町の8割を焼き尽くす大火事が発生していた。そして、焼け跡の質屋から一家惨殺死体が発見され、大金が奪われていた。更に層雲丸沈没による遭難者の死体を引き上げた際、引き取り手のない2名の死体が残った。「この2名は他殺なのではないか?」早速捜査を開始する函館署の弓坂刑事の前に、一人の大男・犬飼多吉の存在が浮び上がる……。
【ものがたり】 昭和22年9月20日。10号台風の最中に北海道岩内で凶悪事件が発生。質店の一家三人が惨殺され、犯人は放火後、姿をくらましたのだ。そして折からの台風のため嵐となった津軽海峡で青函連絡船“層雲丸”沈没の惨事が起き、船客532名の生命を奪った。遺体収容にあたった函館警察の弓坂刑事(伴淳三郎)は、引き取り手もなく船客名簿にもない二つの死体に疑惑を抱いたことから質店一家殺しの犯人の糸口を掴み、岩内警察からの事件の報告も、弓坂に確信を持たせた。
事件の三日前、朝日温泉に出かけた質屋の主人は、この日、網走刑務所を出所した強盗犯沼田八郎(最上逸馬)と木島忠吉(安藤三男)、それに札幌の犬飼多吉(三國連太郎)と名乗る大男と同宿していた。質屋の主人が、自宅に78万円の現金を保管していたことも判明した。弓坂は、犬飼多吉が記帳したとされる宿帳の住所を訪ねたが該当者は見当たらず、沼田と木島の複製写真が出来るまでは死体の照合も出来なかった。だが弓坂は遺体収容でごった返している浜で漁師から聴取した“消防団と名乗る大男が、連絡船の遺体を引き上げるため、船を借りていった”という証言により、犬飼が渡ったと見られる青森県下北半島に向かい、そこで船を焼いた痕跡を発見した。“犬飼が上陸したことは間違いない”と確信し、焼け跡の灰をハンカチに包んで持ち帰る。
その頃、杉戸八重(左幸子)は貧しい家庭を支えるために大湊(現むつ市)で娼婦になっていたが、一夜を共にした犬飼は、八重に三万四千円の金を手渡し、黙って去った。
悲惨な境涯から抜け出したいと願っていながら、現実に押しつぶされかけていた八重に、その大金は思いがけない希望を与えてくれるものだった。八重はその恩人への感謝のつもりで、自分が切ってやった大きな爪を肌身に付けて持っていた。そんな時、八重の前に犬飼の件で弓坂が聞き込みに現われたが、八重は犬飼を庇って何も話さなかった。八重は借金を返済すると、密かに東京へ発った。
一方、写真鑑定の結果死体は沼田と木島であり、二人は“事件後に逃亡中、金の奪い合いから犬飼に殺害された”と推定された。その犬飼を知っている者は八重だけであった。弓坂の労もむなしく、終戦後、間もない混乱期であり八重を発見する事は出来ず、そのうち捜査本部も解散、事件は迷宮入りとなる。
それから10年後、皮肉な運命の歯車は回り始めた。一途な女の愛の執念は、愛する男を新たなる犯罪の渦中へと引きずり込んで行くのだった……。東京へ出た八重は、やはり娼館で働いていた。ふと新聞に目が止まり、10年間思い続けてきた“犬飼”の写真を発見する。“舞鶴の澱紛工場主の樽見京一郎氏、刑余更生事業資金に三千万寄贈”という記事を見た八重
は、“犬飼さんに会って、一言お礼が言いたい”という一念で舞鶴へ向かった。 しかし八重が訪ねた樽見京一郎は「犬飼などという男は知りません。大湊へ行ったことはありますが、あなたとは初対面ですし、まして金を渡すなど、そんな事は絶対にない」(関西弁での台詞)と素気なく否定されてしまった。それでも必死に食い下がる八重を持て余した樽見は、いつしか現実と過去が入り交じり、混濁した意識のなか、とうとう八重を絞殺してしまった。
我に返り、悔やむ樽見だったが、殺人現場を書生に見られてしまい、二人を無理心中に仕立て、遺棄してしまう。こうして八重は樽見を訪問した翌日、樽見家の書生と心中死体となって発見された。だが女の頸椎が折られていた事に疑問を持った東舞鶴警察の味村刑事は、偽装殺人ではないかと疑う。また、懐中から“舞鶴の澱紛工場主樽見京一郎氏が、刑余更生事業資金に三千万を寄贈した”という新聞の切り抜きを発見し、樽見京一郎と女との関係を捜査し始める。
樽見京一郎の本籍を訪ねた味村刑事らは、とても人間が住むような所ではなく、極貧だったであろう生い立ちを、その廃屋から感じとっていた。「そういった所で暮らしてきた者は、どういう考えを持ち、どういった行動をとるのだろうか?」と、舞鶴署に戻った味村は署長に報告するのだった。
東舞鶴警察は遺体検分のため、大湊から父の長左衛門、東京から娼館の主人・本島を呼び寄せた。本島は味村刑事に「気立ての良い娘で、爪に火を灯すように貯めた金を置いて、心中なんてするもんですかねぇ? 私には信じられない」と言い、八重の父親からは「十年前に、八重の所へ函館署の弓坂という刑事が来たことがあった」との証言を聞き及び、すぐさま函館に向かった。樽見が犬飼であるという確証は、昔の犯行の罪滅ぼしに、彼が刑余者更生に寄附したことだ、と位置づけた。

現在は函館警察署を退職し、困窮した生活を強いられていた弓坂を味村刑事が訪ね、10年前の事件の捜査に協力して欲しいと懇願する。弓坂の家族は、いまさら昔の事件などへ介入する事に反対する。だが、弓坂は“自分に架せられた、一生の仕事だ”と味村刑事と共に舞鶴へ向かう。捜査本部は執拗に樽見を責めるが、樽見はしらを切り通すのであった。樽見の大罪は、八重が東京の娼館に残してきた柳行李の中から発見された“純愛の記念にと残した、犬飼の爪と三万四千円を包んだ、当時の岩内事件の古新聞”から崩れていった。

八重殺しは認めた樽見であったが、10年前の、沼田と木島の件は正当防衛であり、それを立証するため函館へ連れていって欲しいと言い出す。青函連絡船で函館へ護送される途中、津軽海峡で恐山を前にし、般若心経を唱える弓坂。そして、樽見は献花を海に投げるフリをして、あっという間に護送する刑事たちを尻目に、投身自殺してしまう。暗い海に残されたのは、青函連絡船の白い軌跡だけであった……。
弓坂: 「誠に悲しいことです。お互いに、人間と人間が信頼し合えないなんて……。あんたは八重さんさえも信じなかった。」
「樽見さん。あんたが歩んできた道には草も木も生えんのですか?……」という台詞が、この物語のすべてを語っているように思える。
【あとがき】 “洞爺丸”遭難事故を題材に作られた原作であるが、時は異にしている。また、青函連絡船関係者によると“映画のような投身自殺は無理であろう”という見解を発表している。
伴淳三郎という喜劇俳優を主役に抜擢した内田吐夢監督は、演技指導を繰り返し、為にすっかり意気消沈してしまった伴淳三郎であったが、喜劇俳優から脱皮した“伴淳”を見事に世に送り出したのである。それほど見応えのある骨太の演技に脱帽する。

喜劇役者や軽妙な演技で定評のある俳優が開眼したといえる作品を少しだけご紹介してみよう。フランキー堺主演「私は貝になりたい」(1959/東宝)と、小林桂樹・高峰秀子主演「名もなく貧しく美しく」(1961/東宝)である。二人の俳優ともに、東宝の専属で森繁久彌主演「社長漫遊シリーズ」、「駅前シリーズ」などでコミカルな演技を得意とする俳優さんで あった。小林桂樹主演「裸の大将・放
浪記」(1958/東宝)は、山下清の自伝的映画でしたが、芦屋雁之助 主演のテレビドラマより、一味もふた味も違う、上手い演技で、凄く面白かった事を記憶しています。「名もなく貧しく美しく」では、聾唖者の夫婦の情愛をきめ細かく演じた秀作です。「私は貝になりたい」は、飄々としたフランキー堺が戦後内地に帰り職業の理髪店にMPが現れ、有無を言わさずB・C級戦犯として現地で裁かれ絞首刑になる、という不条理な物語でした。
最近のコメント