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鬼平犯科帳 '69 第二十九話

麻布ねずみ坂

Photo監督: 久松静児  原作: 池波正太郎  脚本: 松本昭典

出演: 松本幸四郎 (長谷川平蔵) 堺左千夫 (伊三次) 池田駿介 (山田市太郎) 加東大介 (岸井左馬之助)

ゲスト: 田崎潤 (白子の菊右衛門) 井上孝雄 (宗三郎/中村宗仙) 髙須賀夫至子 (お八重) 生田三津子 (お芳) 有馬昌彦 (上州屋作兵衛) 石田守衛 (五平) 川野耕司 (新兵衛) 木下ゆず子 (おたね) 阪 脩 (川谷の庄吉)

Photo_2【ものがたり】 大阪。上方香具師総元締“白子屋”菊右衛門(田崎潤)の店に一挺の辻駕籠が到着し、降りて来たのが菊右衛門である。帰ってくるなり子分の一人に「あいつら、何処や」と横柄に聞いた。あいつら、とは身内の宗三郎(井上孝雄)とお八重(髙須賀夫至子)の二人である。宗三郎は子分であり、お八重は菊右衛門の情婦である事から、お互いに好きになってはならない間柄だったのである。二人は後ろ手に縛られ多くの子分が見張るなか土蔵に押し込められていた。子分の一人が小声で「奴ら、大人しゅうしとります」と言った。菊右衛門が、「覚悟の上の色事やろなと」問うと、「死ぬほど惚れ合った仲だ。斬るなと、突くなと、好きにしやがれ」と威勢がよい。

Photo_3 菊右衛門は、お八重と宗三郎の縄を匕首で切り、「お八重は、呉れてやるわ」と言う。驚く二人に、「お八重は金で買うたんや。ただ呉れたのでは、他の者に示しがつかん。五年の猶予をやろう。五百両きちんと払うてもらおうか。五年経っても払いきれなんだら、その時は死んでもらう」という約束で、宗三郎は江戸へ、お八重は子分の新兵衛(川野耕司)が預かり、大阪で暮らす事になった。

_2 それから五年、宗三郎は麻布ねずみ坂で按摩・揉み療治“中村宗仙”として、大名や旗本屋敷にも出入りするような名高い医師になっていた。ある日、長谷川平蔵に招かれた宗仙は平蔵から「大したものだ。この術はさぞ名のある者から習得したのであろう」と言われ、宗仙は「父に仕込まれました」と言った。名のある大名、旗本の中には五十両もの治療代を払う者もいるという。療治が済み、治療代を渡そうとした時、宗仙が「どなたかいらっしゃった様でございます」と言うと、伊三次が訪ねて来ていた。続いて左馬之助もやって来た。左馬之助は入ってくるなり「妙な按摩だなぁ。猫みたいな奴だ」と言うと、「いや、あいつは犬だよ。庭先に伊三次が来たのを気づいていた」と言った。「あの男、ただ者ではないな」と左馬之助、「何度か白刃の下をくぐっているな、あの男。右腕に刀傷が二カ所」と平蔵も言った。

_2_2 宗仙が番町の旗本、松平某の立派な駕籠で自宅まで送られて来た。「お帰りなさいませ」と声を掛けたのは、普段から身の回りの世話をしてくれている隣りの長屋に住む大工の娘“お芳”(生田三津子)という女であった。茶を出し、洗い張りして縫い直した着物を宗仙に着替えさせている。宗仙は「私は、子供の頃から仕立て直しの着物を着せてもらった事がなかった」としみじみ語り、「うれしいのだが、これからは私の面倒は見ないで欲しい。まだ嫁入り前の娘だし、ここには五平(石田守衛)もいるのだから」と言う。そこへ、白子屋菊右衛門からの遣い“川谷の庄吉”(阪 脩)がやって来た。この男は三月に一度ほどやって来て、菊右衛門に返す金を受け取りに来ていたのである。

_2_3 表の長屋の入り口では、伊三次が煙草を吹かしている。お芳が長屋に帰ると、上州屋作兵衛(有馬昌彦)がお芳にと帯を持って来ていた。お芳は迷惑そうな顔をして裏へ回ってしまった。

Photo_5 宗仙の家では、庄吉が証文を出し「締めて、四百八十両か。残りの二十両はいつや。残りは後ひと月しかない。遅うても、来月の半ばまでには受け取らんと、間に合わんようになるで」と言っている。「来月の十日にまた来るで」と言い置いて帰って行った。

Photo_6 伊三次が「上方から宗仙を訪ねて来た男が居る。何処の者だか分からぬが、その男は両国を縄張りとする香具師の元締め“明烏の源兵衛”という家に入って行った」と報告した。源兵衛の身内の者から男は川谷の庄吉といい、大阪の香具師の大元締め白子の菊右衛門から差し回しの者で、三月に一度は必ず顔を見せる、ということまでは分かった。菊右衛門と宗仙との関わりはまだ分からない、と伊三次は言う。「当て推量ですが、宗仙は白子屋に強請られているんじゃありませんかね。かなり金回りが良い筈なのに、暮らし向きは質素で、稼いだ金を片っ端から白子屋に吸い上げられて居るんじゃねぇでしょうか」と言った。平蔵は「白子と宗仙を洗ってみろ、何か出て来るかも知れんぞ」と伊三次に命じた。そこへ同心の山田がやって来て、「北町奉行所から遣いの者が参っております。廻船問屋“長崎屋”が御禁制の抜け荷を扱っていた事が露見し、一家心中を図ったという事です」と告げた。

Photo_7 長崎屋から平蔵、左馬之助、伊三次らが出て来た所へ宗仙が現れたが、平蔵らを見届けると踵を返した。それを見咎めた平蔵は「宗仙、待て。顔色が優れないな」と呼び止めた。宗仙は「こちらの治療をしておりましたところ、思いがけない事になりまして……」と言った。宗仙は、返済の残りが心配だったのである。平蔵は「おぬし、長崎屋に死なれては困る事があるのではないのか」と図星を指されてしまった。

Photo_8 伊三次が火盗改役宅に戻って来た。「長崎屋からの治療代、五十両あまりを取り損ねたらしい」というものであった。「だが、待てよ。あの気の落とし様はただ金を取り損ねただけではないらしい」と大した眼力である。間近に迫った期日に、宗仙は途方に暮れていたのである。それまでは順調に行っていたものが、時として思うようにならないのであった。

_3 宗仙は自宅で飯も食わず頭を抱えて、ふて寝をしている。一回の治療代で何十両という大金が入る事もあったのだが、今はそのような口が掛からない。庶民の按摩治療代では二十両という金には程遠く、宗仙の焦りは頂点に達していたのである。そんな時、隣りの娘お芳が、そのような宗仙を見るに見かねて、縫い物の手間賃を貯めた三両の金を持って来た。だが、宗仙はお芳の金だけは受け取れない、と言う。「私には、上方に言い交わした女がいるんだ。名前はお八重。惚れ合って一緒になる所を、訳あって別れ別れに暮らしているんだが、金はその女の為に拵えなきゃならないもPhoto_9のなんだ。だからその金はお前から借りる訳にはいかねえんだよ。気持ちだけで充分なんだ」と話し出した。お芳は愕然としたが、お八重さんも喜んでくれる、と金を渡そうとする。だが宗仙は「お芳さんがこんなに心配をしてくれるのに、俺はお八重の顔がはっきり思い出せないんだ。顔だけじゃねえ。声も仕草も、この五年間、身を粉にして頑張って来たのに、その女の事を思い出せなくなっちまった。この二年ほどは、何の為に金を稼いでいるのか分からなくなっちまった。お八重の為より、男の意地だけ。俺に吠え面かかせようとする上方の、そいつに負けたくなかっただけなんだ」と男泣きする。残りの金多価を聞いたお芳はある事を思いついた。

 呉服太物問屋“上州屋”作兵衛の店にお芳は行った。恵比須顔で迎えた作兵衛に「お願いがあるんです。黙って私に二十両貸してください」と単刀直入に頼んだ。

Photo_12 宗仙は、急に「五平、私はこれから上方に行く。支度をしてくれ」と言い付けた。そこへお芳が作兵衛を連れてやって来た。作兵衛は、「話はお芳さんから聞きました。黙ってこれをお収めください。利息なしの催促なしです。どうぞ好きに使ってください。これっぽっちの金で、お芳さんやあなたに、どうこうしようって事はしません。あたしはお芳さんの思い詰めた気持ちに絆(ほだ)されましてね」と二十両の金を懐から出した。作兵衛の後でお芳は涙をこぼしている。

Photo_13 小料理屋の座敷で宗仙と庄吉が会っている。「よう出来たなぁ、大したもんや」と金を勘定しながら庄吉が言う。「俺は明日、お八重を迎えに上方に立つ」と宗仙が言った。それを聞いた庄吉は「お前が行く? それはあかん。それはまずいでぇ。あの親分のこっちゃ、お前の顔を見たらまた何を言い出すか分からんがなぁ。ここはわいに任せとき。お八重はんは、わしがちゃんと連れてくるよって。あと二十日ほどの辛抱やないか」と慌てだした。

Photo_14 宗仙から金を受け取った庄吉は、白子屋菊右衛門の家へ戻った。伊三次がしっかり後を尾けているのを庄吉は知らない。菊右衛門と新兵衛を前に、庄吉は「出来まっかいな、あんなガキに。二十両、締めて百八十五両」と金を前に出鱈目を言っている。新兵衛は「なんや、たったこれだけかい」と言うと、「三百両の余も余ましゃがって、親分に命乞いしてくれと虫の良い事を抜かしよりまんのや」と言う。それを聞いた菊右衛門は「どうや、新兵衛。わいの言うた通りやないか」と独りごちている。だが新兵衛は「あいつに限ってと思うておりましたんや」と言う。菊右衛門は子分二人にすぐに江戸へ立て、と命じた。宗三郎殺害の為にである。お八重は新兵衛の店“小料理・小雪”で真面目に働いている。お八重を預かっている新兵衛には「阿呆、女は殺すかいな」と言った。

Photo_11 新兵衛は自宅に帰り、お八重に宗三郎はとうとう銭が出来なかったと伝え、今ではすっかりお八重の事は忘れて、他の女と所帯を持っているそうだ、と作り話を聞かせた。お八重は「あの人は、たとえお金は出来なくても、何か一言でも言ってなかったでしょうか」と詰め寄るが、「親分は今でもお前に惚れてんねん。あんな男の事は忘れてしまえ」と言い含めた。今夜は菊右衛門がやって来ると言い、機嫌良く迎えなくてはならぬ、と言った。やがて新兵衛の店、小料理屋“小雪”に菊右衛門が現れた。愛想を言いながら菊右衛門を案内して来た新兵衛の女房は、お八重が待っている部屋へ通して驚いた。お八重は自害していたのである。

 伊三次は大阪から戻って火盗改役宅を訪れた。平蔵は左馬之助を相手に酒を飲んでいる。「庄吉って野郎、あんな悪党はいません」と出し抜けに言うと、「まぁ、待て。落ち着いて話せよ」と諫めた。「宗三郎が白子屋に払った粗方を、庄吉の野郎、白子屋に払わないで途中でネコババを決め込んでいやがったんで。野郎、その金で浜松に店を出していやがるんです」とまくし立てた。「世の中には悪い奴がいるもんだなぁ」と左馬之助が言い、「宗仙は五年の期日に五百両。目の色を変えて金を稼いでいたんだな。その五百両を菊右衛門が受け取っていないとするとどうなる?」と平蔵が言った。「菊右衛門という男。黙って見過ごすような男ではあるまい」と左馬之助が断じた。

 その夜、宗仙の家の前に白子屋の意を汲んだ子分二人が刺客としてやって来た。裏から上がって来るなり、二人は名乗りを上げ、命を取りに来た、と告げた。宗仙は約束を違えちゃいない、庄吉に五百両渡してある、と言うが二人は納得しないし、親分の命であるから逆らえない。「この仕打ちは、間違いなく白子の親分の差し金なんだな」と二人に確認した。そして二人を斬り倒し、何処へともなく姿を消した。そこへ左馬之助と伊三次が駆けつけて来た。

Photo_15 それから、十日ほど経って大阪の白子屋菊右衛門は江戸に差し向けた藤七と小平次の二人から、何の知らせもないのが気になり出していた。そして新兵衛に「まさか、しくじったんやないやろな」と言い、「あの二人や、間違いはおまへんやろ」と言った。部屋に入った菊右衛門は、宗三郎がいる事に驚いた。「てめえは、それでも大阪の香具師の総元締めか」と言う宗三郎に、後ずさりした菊右衛門は「なんや、殴り込みに来よったんかい」と明らかに虚を突かれた格好で腰が引けている。追い打ちを掛けるように「お八重を貰いに来たぜ。五百両巻き上げておきならが、よくも命まで狙いやがったな。俺は五百両の怨みを晴らすまでは、てめえになんぞに殺されやしねえぞ」と言う。大騒ぎになった白子屋へ、左馬之助と伊三次が縛り上げた庄吉を同行して来た。左馬之助は名を明かし、「名は申せぬが、江戸のさる御公儀のお役に就いている者の代理で参った。白子屋菊右衛門に溝鼠(どぶねずみ)一匹、届けるようにとな」と菊右衛門に告げた。伊三次に引き立てられ庄吉が菊右衛門の前に現れた。

Photo_16 そして、全てが露見した後、宗三郎は菊右衛門から、金の工面がつかなかった事を聞かされたお八重は、絶望して自害した事を聞かされた。我慢出来ない宗三郎は「お八重を殺したのは、てめえだろ!」と胸ぐらを締め上げた。為すがままの菊右衛門は「五年の間、男と女が色恋を通すとは、白子屋菊右衛門の負けじゃわい。堪忍してくれ」とうな垂れている。柱に縛り付けられている庄吉の縄を解き、宗三郎と一騎打ちさせる、と言う。庄吉には匕首を貸し与え、宗三郎にはお八重が命を絶った出刃包丁を与え、土蔵の中で怨みを晴らすのである。ところが庄吉は「勘弁してくれ、金は返す」といきなり土下座をしている。が隙を見せた途端、庄吉の匕首が卑怯にも宗三郎の右太ももを刺した。「どうせ助からん命や。お前道連れにして死んだるわい」と往生際が悪い庄吉であった。宗三郎は土蔵の外で皆が見守る中、左腕を斬られながらも見事本懐を遂げた。

 江戸へ帰り、左馬之助は平蔵に「傷の癒えも早々に、宗三郎は菊右衛門に連れられお八重の墓参りをした」と告げた。また菊右衛門は、自分の不始末だと五百両を宗仙に与えた、とも言ったが「金は返って来ても、女は生きて帰らんからなぁ」としみじみ言うと、平蔵は「哀れな男よなぁ」とぽつりと言った。「宗仙は必ず変わる。貧しき者の友として……また、お芳のところへ必ず戻ってくる、と伝えよ」と伊三次に言う。

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