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2012年11月

鬼平犯科帳 '69 第二十五話

男の毒

Photo監督: 土居通芳  原作: 池波正太郎  脚本: 桜井康裕

出演: 松本幸四郎 (長谷川平蔵) 平田昭彦 (天野甚造) 堺左千夫 (伊左次) 市川五百蔵 (竹内孫四郎) 池田駿介 (山田市太郎)

ゲスト: 藤木悠 (弥市/宗七) 矢野純子 (おきよ) 沢村いき雄 (伊助) 稲吉靖 (直吉) 木田三千雄 (藤兵衛) 中江真司 (源次) 西川敬三郎 (総上(ふたがみ)の三五郎) 成合晃 (与平)

Photo_2【ものがたり】 ある雨の夜、火盗改メ方の長谷川平蔵、与力・天野甚造 (平田昭彦)、密偵・伊左次 (堺左千夫)、同心・竹内孫四郎、山田市太郎が裏長屋の一軒を見張っている。平蔵が伊左次に「あれが黒股の弥市(藤木悠)のねぐらか」と問い、「一時しのぎの隠れ家にしているようです」と答えた。竹内が山田に「総上(ふたがみ)の三五郎(西川敬三郎)の右腕と言われた男にしては、慎ましい住まいだなぁ」と言った。天野が「弥市は一人なのか」と伊左次に尋ね、伊左次は「それなんですが、奴は鑿(ノミ)師の腕は大したもんなんですが、女の方にかけちゃそれ以上。あいつに見込まれたら蛇に蛙、干からびるまで生気を吸い上げて、後は岡場所か飯盛り女に売り飛ばすという極道野郎で、大分労咳がひどいという事でございます」と言った。

Photo_4 中では、弥市が「おきよ(矢野純子)、諦めな。逃げようったって、おめえの身体は言うことを効かねえ筈だ。おめえの身体はなぁ、たった三、四ヶ月で蕩(とろ)けさせたんだ」と嫌がる女を引き寄せた。と、その時入り口の戸が開き火盗改メ方が踏み込んで来た。弥市は咳き込みながら脇差しを抜き、立ち向かって行ったが、捕縛された。それを呆けた目で女は見ていた。

 おきよは二十二歳。早くに両親と死に別れ、一人きりの身内で叔父の伊助(沢村いき雄)に育てられた。十八の時から働き、四ヶ月前、弥市に目を付けられ盗人とは知らずに共に暮らしていた。行く宛のないおきよは、叔父の所へ帰るしか道がなかった。

Photo_11 伊助は、一人で居酒屋を商っている。その灯の消えた雨戸をおきよが叩くと、内から叔父の伊助が顔を出し、「こんな夜更けに一体どうしたんだ」と聞くと、おきよは「あいつから、弥市からやっと逃げて来られた」と言った。それから一ヶ月余り後、平蔵と大野は見回りの途中、武家屋敷の塀外を歩いて来る溌剌としたおきよを見た。「小間物屋と所帯を持ったと聞いたがなぁ」と平蔵。その前を何もなかったかの様に知らん顔をして通り過ぎた。大野が「いやぁ、驚きましたな」と言い、平蔵は「女は魔物と言いたいのであろう」と引き継いだ。天野は「あれからまだ一月余りだというのに、あの変わり様は……」と言う。二人はおきよの後を尾けてみた。すると、小間物屋“ふじや”に入ったかと思った瞬間、おきよは店の戸の陰から平蔵らを覗い、平蔵と目が合うとサッと中へ消えた。

Photo_12 店では亭主の直吉(稲吉靖)が昼から欠伸したり、腰を擦っている。おきよは帰ってくるなり、「お前さん、着物を脱いで下さいな」と言うと、直吉は「お前、そんな昼っから……」と及び腰になっている。おきよは「嫌だぁ、お前さん。良く効くっていう膏薬を買ってきたんですよ」と言うと、直吉は「この腰には、生卵が効くんだ」と言うと、「それなら、ほらこの通り……」と大量の生卵を見せ、「あたしは、両親に早死にされたから、お前さんには長生きして貰おうと思って……」としみじみ言う。直吉は「なぁに、一日のんびりしてりゃ、大丈夫さ。三つ、四つ、まとめておくれよ」と言った。

 市中見回りの途中で、平蔵と大野は伊助の店に立ち寄った。「十五年、いやもっとになりますかなぁ。鐵っあん」と伊助は言った。平蔵が「飲んだくれて、親爺に介抱された時、おきよはまだ小さかったなぁ」と昔を懐かしんでいる。大野は「妙な巡り合わせと言いますか、いや因縁とでも申しますか」と話をしていると、おきよの亭主の直吉が店の戸口に立っている。「こいつが今話していた直吉です」と言い、「そんな所に立ってねぇで、中に入んなよ」と促す。「伯父さん、ちょっとお話があるんですが、お邪魔してもよろしいでしょうか」と中へ入ると二人連れだって奥へ行ってしまった。「何か子細があり気ですな」と大野。頷く平蔵。奥の土間では伊助が「お前さんが望んでおきよを貰ってくれたのに、何かあったのかい」と尋ねた。もじもじしていてなかなか切り出さなかった直吉がやっとか細い声で「強いんです、強すぎるんです」とだけ言った。喧嘩の腕っぷしの事を言っているのかと思っていた伊助、もう少し聞いてみると直吉は「夜が怖いんです。あたしゃ、このままじゃおきよに殺されちゃいます。日に三度、三度、生卵を飲んだくらいじゃ、追っつかない。笑い事じゃありませんよ、伯父さん」と涙声で訴えている。「そりゃ、男冥利に尽きるってもんじゃねえか」と伊助が言うと、「今も、伯父さんの顔が真っ黄色に見えているんです。助けておくんなさい、体が萎んでいくようで……」と。「へぇ、あのおきよがなぁ……。そりゃ、困ったねぇ。こればっかりは止めろ! と言うわけにはいかねえしなぁ」と困り果てている。「おきよの気持ちを、何か他の事に反らす事だなぁ」と伊助も曖昧な答えしか言えなかった。

 届け物を持ち、おきよは家を出て、その家の庭先で薪を割っている逞しい男・与平(成合晃)に惹かれ、スルスルと庭へ入り、井戸で水を飲む。男はおきよを嘗めるように見ていた。

 その夜、おきよが「今夜は風が強いねぇ」と寄って来ると、「明日は芝居でも見て来ないか、良いのが掛かっているらしいよ」とはぐらかしてしまった。おきよは「夕べも放ったらかしにして……」と不満を漏らした。

Photo_13 翌日、おきよは神社へお参りに行き、直吉との幸せを念じていた。まだこの時も弥市に植え付けられた魔性に気がつかないでいたのだった。そこへ昨日の男・与平がヌッと眼前に現れた。料理屋“山吹屋”の一室で与平は煙草をふかしている。その横でおきよは「忘れてください、今日の事は。魔が差したんです。これっきり忘れてください」と哀願するが、与平は「そりゃねえぜ」と取り合わない。おきよは持ち合わせの金を全て渡し「これで、何もなかったことにして下さい」と言って別れる。料理屋“山吹屋”で逢瀬を重ねること数度。立場が逆転してしまった。呼び出された山吹屋の一室で与平は、「もう、これっきりにしてくれ。俺ぁ命が惜しくなったんだ。こう毎日呼び出されちゃ体が持たねぇよ」と頼んでいる。おきよは「そんなぁ、こうやってお小遣いだって持って来てるのに……」と言うと、「いらねぇ、いらねぇよ。今までの分も全部返す、だから勘弁してくんな」と懐から財布を出し、金を布団の上にばら撒いた。「そんな事云ったって……」と纏わり付くおきよを撥ね除け、「おめぇは化け物だ」と言い捨てて出て行った。与平が出て行った後、「化け物、化け物……」と二度呟き、おきよは突っ伏して泣いた。

 その夜、荷を担いでふらふらしながら直吉が“ふじや”に帰って来て、おきよを呼んだが返事がない。帳場の銭箱は空になっており、箪笥や引き出しも開けっ放しになっている。直吉は「出てってくれた、あぁ助かった」と心底呟いた。その頃、おきよは夜更けの町を風呂敷包み一つを抱いて、泣きながら歩き、そして伊助の店の戸を叩いた。

 伊助が火盗改メ方の長谷川平蔵を訪ね、「おきよが、しくじった」と告げた。「半月になります、カタが付いてから」と言う。平蔵は「おきよの身体、まともじゃなくなってるんじゃないか」と聞いた。「流石、鐵っあん。目の付け所が違いますねぇ」と伊助が褒め、平蔵も「変な褒め方するなよ」と言った。「弥市の野郎が捏(こ)ね上げちまったんだ!」と伊助は吐き捨てた。「考えてみりゃあ、おきよも可哀想な女です」「それで、おきよは今は……」と平蔵が問いかけると、「それが、面倒をみても良いという旦那が現れまして……」「囲われ者か」と言う。「考えたんです、あっしも。どっちみちこれから先、まともな所帯を張れる女じゃねぇって。そんなら、これから先、銭の苦労をしねぇで済む気儘が出来るような暮らしが、あいつの為になるんじゃねぇか、と思いましてね」としみじみ伊助が語った。「おきよが良く納得したなぁ」「へぇ、やっとあいつも、てめえの身体が並じゃねえって事を気づいた様で、おきよの方から承知してくれやした」と、平蔵は「哀れな話だなぁ……」と寂しそうに言うと、気を取り直したのか伊助が「いやぁ、その旦那ってえのが、もう女には用がねえって体なもんで。男の役に立たねえ旦那なら、おきよの身体の虫も騒ぎ出す事はねえと思いやしてね」とまくし立てた。

 「秋口まで、おきよが我慢出来るようだったら、俺の所まで来るように言っちゃあくれめえか。半年辛抱が出来たら、おきよの身体の固まった証拠。格好な嫁の口を世話しようじゃねえか。このまま囲われ者で終わらせるのは酷な話だからなぁ」と言う。「鐵っあん。喜びますぜ、おきよが……」と伊助は涙ぐんでいる。

Photo_8 湯屋の帰り道、おきよは浮き浮きした様子で歩いている。そして妾宅へ帰って来ると、襖の間取りをしている男に気づいた。男の横顔を見た瞬間、あっ! と持っていた湯桶を落としてしまった。男は宗七というのだが、おきよをとんでもない女にした弥市に瓜二つであった。そこへ主人の藤兵衛(木田三千雄)が帰って来て、「お帰り」とおきよに声を掛けた。「襖を張り替えようと思って、経師屋さんに来てもらったんだ」と言う。おきよは「経師屋さん?」と怪訝な顔をした。

 経師屋の宗七は、藤兵衛に襖の柄や色見本を見せている。「あたしゃ、地味な方が良いんだが。お前はどうだい?」とおきよの意見も聞いてみると、宗七だけを見つめていたおきよはハッと気づいて「えっ? お茶ですか」と上の空でいた自分に気づいた。「では、明日から仕事に掛からせて頂きやす」と言って、宗七が帰るのをおきよは木戸まで送って来た。だが、おきよは胸の昂まりをどうする事も出来なかった。

Photo_9 火盗改メ役宅の用部屋で同心の竹内は同じく同心の山田に「お前、男の毒ってどんな物か分かるか」と聞くと、「知らぬ」と言う。「じゃあ、女の魔性は?」「知らぬな」と。「では、女の方はどうだ」と竹内はしつこい。面倒臭そうに「知らん」と憮然と返事はしている。竹内は「何も知らん奴だなあ。業に浸かった女と今夜あたりどうだ? 良い穴場を見つけたんだ」と誘っている所へ与力の天野が苦い顔をして立っている。そして「狸が出るか、狢(むじな)が出るか……。竹内。今夜の宿直(とのい)を申し付ける」と一方的に申し渡されてしまった。「そんな殺生なぁ……」とこぼす竹内に、「先程、お頭が何と申されたか、竹内言ってみろ」と命じられ、「弥市の死後、なりを潜めている総上の三五郎がそろそろ動き出す時期、市中見回りの警備を一層厳重にせよ!」と言う。「穴場にばかり潜り込んで、市中の取り締まりが出来るか!」と叱責を受けるが、「その内、お前の穴場にも案内せよ。三五郎を捕らえてからの事だが……」と言い残し去って行った。

Photo_16 妾宅に経師屋が入り、仕事を始めた。おきよは女中の“おこう”を呼び、日本橋まで行って煎餅を買って来てくれ、と頼むが後でも良いですか? と聞き帰すおこうに、返事をする代わりに睨みつけた。飛び上がるようにしておこうは出掛けて行った。家にはおきよと宗七の二人だけ。だが、おきよは「いけない、いけない」と念じてはいるが、身体の方が言う事を聞かない。そこへ宗七が「奥の仕上がり具合を見ておくんなさい」と声を掛けた。言われて立ち上がると、おきよはいきなり宗七の手を握り、乳に当て「抱いて……」と呟いた。「いけねえ、おかみさん。いけねえよ」と言う宗七に、おきよは「あんたを連れてきた旦那が悪いんだ」と心の中で必死に叫んでいた。

Photo_17 藤兵衛が血相を変えて伊助の店に飛び込んで来た。「おきよが経師屋と逃げた。どうしてくれるんです!」と言って泣き出してしまった。「弥市だ。あいつの毒だ!。畜生、どこまで祟りやがんでぇ」と伊助は行き場のない怒りに震えている。

 そして、一ヶ月ほど過ぎた。ある裏長屋の一軒の戸に“経師屋 宗七”、また軒先には“襖の張替へいたし□”と書いた木札が下がっている。部屋では宗七が欠伸をしながら刷毛をしごいている。帰って来たおきよが「お前さん、腰は怠くないかい」と聞いた。「いけねえ、いけねえ。昼間から欠伸なんて、こりゃいけねえ。何てこったい、こりゃどうかしてるぜ」と言う宗七。「あたしだよ、あたしのせいだよ。あたしの身体のせいなんだ。分かってるんだろ、まともじゃないって。火照ってくるんだよ、体中が火照って来ちまうんだよ」とおきよが言うと、「俺ぁ大丈夫だ。それより、伯父さんの所へは顔を出したのか」と聞いた。首を振るおきよは「行けた義理じゃないよ。お前さんにもこんなに肩身の狭い思いをさせてるんだもの……」「そのうち、きっと楽な暮らしをさせてやるからな」と優しく宗七が言った。

 宗七が得意先に届け物がある、と出て行った後、叔父の伊助が長屋にやって来た。おきよは神社へ叔父を引っ張って行き、お参りを済ませると、「あたし、願を掛けているんです。三、七、二十一日、宗さんに指一本触れずに我慢するって……」と、「おめえのその身体で、そんな事出来る筈がねえ」と言う伊助に、「出来ます。やってみます。このお守りに誓って」と小さな水晶玉を見せた。伊助は何がなんでもおきよを連れて帰ろうとするが、おきよは帰らない、と聞き分けがない。「俺ぁたった一人の姪だと思うから、こうして心配してるんだ。このまま黙って帰りゃ、世間に恥を晒すことはねえんだ」と伊助が言うと、「この願掛けを破ったら、あたしは死にます。人並みの女になれるか、なれないか。あたしはこの水晶玉に賭けたんです。二十一日間、身体を清めたら、きっと魔性が消える筈なんだ。そして宗さんの良い女房になりたい」という、おきよの心情に負け、そのまま伊助は帰って行った。

 密偵の伊左次が、総上(ふたがみ)の三五郎の身内で引き込みの“槌の子の宗七”(藤木悠/二役)を見た、と火盗改メ役宅へ知らせに来た。黒股の弥市に瓜二つだが、まったくの別人である、とも告げた。宗七を尾けると、船宿“鶴や”に入るのを見届け、そのまま見張りを続けた。鶴やの玄関で見張りをしている男は、間違いなく三五郎の手下“源次”(中江真司)である事も確かめた。

Photo_18 鶴やの中では、総上の三五郎に「所帯を持ったんだってなあ。だが、おつとめはしっかり頼むぜ。それにしても伊勢屋の下見に少しばかり時が掛かり過ぎやしねえか」と言われ、宗七は「襖の張り替えに掛かりましたから、見取り図はもう出来たも同じ事で」と言い、「今度のおつとめを汐に、足を抜きたいのですが……」と言うと、「その話はおつとめが終わってから、って言うことにしようぜ」とはぐらかされてしまった。「繋ぎは源次に任せたから、万事源次の言う通りにしろ」と言われ、繋ぎを待つ間は伊勢屋の襖の張り替えをしながら、店の絵図面を作ることになる。

 家に帰った宗七は、おきよを呼ぶが返事がない。すると、家の脇で何やら卵を割りながら、念仏のような言葉を唱えている。「あぁ、もったいねえなぁ、そんな所で何してるんだ」と聞くと、「止めないでおくれよ、あたしはお前さんの良い女房になろうと願を掛けたんだ。後生だから、あっちへ行っておくれよ」と一心不乱に卵を割っている。床に横になり、煙草をふかしている宗七、「大事な仕事が入ったんで、助かるぜ」と言うと、おきよは淋しそうな顔を見せた。「そうじゃねえよ、ありがてえんだ。おめえの心根がよ……」とおきよを引き寄せるが、「今夜から、あっちで寝ます」と隣りの部屋で着替え始める。

 翌朝、平蔵と伊左次は船宿“鶴や”へやって来た。宗七は隠居風の男と小半刻も一緒に話し込んでいたが、男は用心深く舟でやって来て、舟で帰り、表にはとうとう顔を見せず仕舞いだったと言う。そして、宗七は黒股の弥市の女と一緒に住んでいる、とも告げた。平蔵は「何、おきよが」と言うと、「へい、因果な話で……」と。平蔵は、宗七の見張りを怠るな、と厳命した。

Photo_19 宗七は、伊勢屋の襖を張り替えている。そこへ源次が忍んで来た。催促の為であり、「お頭がじれていなさるぜ。一体いつまで待たせるんだ」という源次に、「あと三日待ってくれ」と言う。「じゃあ、そのようにお頭に伝えるぜ」と言って風のように消えた。

 おきよは今日も神社へ願を掛けに来ていた。平蔵と大野はそれを見張っている。「訳を話して、おきよを宗七から離してみては如何でしょう」と大野が言う。平蔵は「宗七に気取られたら何とする」と大野の言を無視した。「これ以上、おきよの不幸を見ているに忍びないのです」と言う大野に、「公私混同してはならぬ。我々の仕事は、三五郎一味を引っ括る事にあるのだ! おきよの事は、それからの事。それにしても何と悪い星の下の女よ」と平蔵も忍びないのだ。

 その頃、船宿“鶴や”では、三五郎一味が全員顔を合わせていた。宗七は伊勢屋の絵図面を広げる。三五郎は「今夜のおつとめの後、皆には江戸からフケて貰うよ。上方にするか上州にするかは分からねえが、とにかくここ二、三年は帰って来ねえ。皆もそのつもりで、しっかり頼むぜ。集まる時刻は四ツ、場所はこの部屋、手筈はその時に……」そして「宗七、おつとめが済むまでは、女は忘れろよ!」と釘を刺した。

 おきよの様子が変わってい、そわそわと落ち着きがない。水晶玉を握り締めながら我慢の極限を彷徨っていたのだ。おきよは冷や酒をぐいっと飲み干した。と、宗七が帰るなり、「おきよ、どうしたってんだ」と声を掛けると、「身体の外道が……負けるもんか」と井戸端へ飛び出して柄杓の水を自分の体へ狂ったように懸け始めた。「今のあたしは獣なんだ」と言うおきよを見た宗七は、戸棚の生卵を三、四ツ一気に飲み干した。

 おきよは、とうとう願掛けを破ってしまった。「お前さん、どうしよう」と、うろたえている。宗七は「おめえが悪いんじゃねえ。バチは俺に当たるんだぜ」と言い、「明日、早立ちで甲州へ行こう。子が授かる湯があるそうだぜ。湯に浸かるのも良いもんだ。それから、今夜中に仕上げなきゃならねえ仕事があるんだ、支度しといてくれ」と言った。

 船宿“鶴や”の周りは火盗改メ方によって取り囲まれている。宗七はふらふらとした足取りで鶴やに向かっていた。鶴やには、一人、また一人と大方の盗人どもが集まって来ていた。だが、宗七だけは未だ到着していなかった。宗七は堀割りで足を取られ転落した。その時、おきよは旅立ちの荷造りの真っ最中であったが、何としたことか紐が切れた。が、まったく気にせず荷造りを続けていた。

 伊左次の報告によれば、四ツに全員が揃っているはず。平蔵は「一匹も逃がすな!」と船宿へ踏み込む事を命じた。全員を捕縛するのに大した手間は取らなかったが、大野が「宗七の姿だけが見当たりません」と報告した。引き立てられる源次を捕まえ、「宗七はどうした」と聞くと、「野郎は臆病風に吹かれやがって、来やしねえ」と吐き捨てた。そこへ伊左次が駆け寄り、「この先の堀割りで、宗七が死んでおりやす」と告げた。急ぎ行ってみると、なるほど堀割りに俯せに転がっている死体があった。伊左次が走り寄り「“槌の子の宗七”とも言われた男が……」と抱き起こす。「頭を割られている所を見ると、裏切った仕返しでしょうか」と伊左次が言うと、平蔵は「いや、違う。これが元よ」と握りしめた手を開くと、卵の殻をしっかり握りしめていたのであった。その顔に平蔵は懐から出した手拭いを掛けてやる。

 旅支度を終え、宗七の帰りを待っていたおきよは、いきなり土間に入って来た長谷川平蔵に驚いた。続いて火盗改メ方の役人が数名、戸板に乗せられ、顔には手拭いを掛けられた宗七の死体が運び込まれた。「おきよ、誰を恨むでないぞ。自分を恨め」と言われたおきよは、宗七の死体にしがみつき泣きじゃくる。「黒股の弥市の奴。とんだ形見をお前の身体に残したものだ……」と呟く平蔵。この後、おきよはまた伊助の家を訪れる。

 だが、おきよは後に、髪を下ろし仏門に帰依して、初めて平穏な日々を送ったと言う……。

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鬼平犯科帳 '69 第二十四話

八丁堀の女

24監督: 高瀬昌弘  原作: 池波正太郎  脚本: 柴英三郎

出演: 松本幸四郎 (長谷川平蔵) 竜崎勝 (酒井祐助) 古今亭志ん朝 (木村忠吾) 堺左千夫 (伊左次) 北川陽一郎 (山崎国之進) 市川五百蔵 (竹内孫四郎)

ゲスト: 柏木由紀子 (美代) 石浜朗 (松尾仙之助) 郡司良 (本庄源八郎) 小園蓉子 (お欣) 清水彰 (大丸屋万兵衛)

PhotoPhoto_11【ものがたり】 火盗改メの酒井と木村が木綿問屋“三澤屋”へ賊が押し入り、夫婦と奉公人十三人が皆殺し、という報に現場に駆けつける。犯行は半刻ほど前、まだ気配が残っているはず、と酒井は言う。だが、すでに北町奉行所の高張り提灯が掲げてあり、店へ入ると北町奉行所の同心・松尾仙之助(石浜朗)が高飛車に「用向きを伺おう」と酒井に言う。酒井は「一家皆殺しと聞いた。死体を検めたい」というと、松尾は「死体はすでに当方で片付けた。まず死者を弔うが人情である。そこが火盗改メと町方との違いなのだ。早々にお引き取り願おう」と、取り付く島もない。木村は松尾の態度に怒りを酒井にぶつけた。

Photo_2 その日のうちに、火盗改メ役宅へ北町奉行所の与力・本庄源八郎(郡司良)がやって来て平蔵に、「賊は五百両余りを持ち去ったが、殺された十三人が一滴の血も流さず、絞められた跡もなく、毒を飲まされた形跡もない。火盗改メの援助を乞いたい」と丁重に言った。酒井が「もしや……」と平蔵に言うと、平蔵も頷き、本庄に「針です」と告げた。本庄は、火盗改メの情報の多さに驚いた。早速、酒井と木村が三澤屋へ赴くと、松尾がいた。与力の本庄殿からの依頼で、死体を検めると断り、二人はさっそく検分を始め、「やはり……」と酒井が呟き、「こっちもです。」と木村が言う。事件が起きた八丁堀は、与力・同心などの居住地で、武家地なのだが町人との接触が多く、俗に言う「八丁堀風」という特殊な風俗を作り上げていた。いわば人間たちが粋なのであった。

Photo_3Photo_5 酒井と木村は、本庄の屋敷を訪れ、「死因は、針でうなじの急所を一突き。この手口は、下野(しもつけ)一体を荒らし回る盗賊“死針(しにばり)の五郎蔵”一味の仕業に違いありません」と報告した。そこへ娘の美代(柏木由紀子)が茶を持って現れた。酒井があまりの美しさに見とれていると、横で木村がにやりとしている。

 日を空けずに、日本橋小室町の木綿問屋“叶屋”が襲われ、十一人全員が針で殺害され、金二、三百両が奪われるという事件が起きた。本庄は、「下野国・真岡(もおか)が死針の五郎蔵の本拠地と聞き及びますが、真岡は木綿の産地ですな」と平蔵に言う。下野国・真岡は現在の栃木県真岡市である。

Photo_4  火盗改メ役宅へ密偵の伊左次がやって来たが、死針の五郎蔵の手掛かりがまったく掴めない、何も臭わない、と報告した。伊左次を下野に行かせてみる。二軒立て続けに木綿問屋が狙われたことが平蔵には気になった。酒井を伴い、江戸で木綿を市価より安く商っているという、もう一軒の木綿問屋“大丸屋”の様子を覗いに行くと、店から女が出て来た。「身のこなし、目配り、ただ者ではない。何か臭う」と平蔵は酒井に女を尾けさせると、女は吾妻橋を渡り、墨東の道を雨乞いで名高い向島の“見回り稲荷”の手前で右に折れ、武家や富裕な商人の妾宅が密やかに点在する中の一つの寮へ入って行った。

Photo_6 平蔵は、店の前で女どもが木綿を買い漁る様を見ていると、店の主・大丸屋万兵衛(清水彰)が「火盗改メの長谷川様が直々にお出ましになるとは……」と声を掛けてきた。座敷に通された平蔵が「まるで、儂を見知っているようだな」と、「問屋仲間の競争が激しいと聞き及んでいる」と言うと、万兵衛は「商売敵きを斃すため、賊の名を騙って二つの店を襲わせた。とお疑いなのですか」と言い出した。平蔵は「なるほど、そういう見方も出来るな。だが、儂は自分の目で確かめぬ内は人を疑わぬ男だ」と言い残して去った。

 伊左次が下野から帰り、報告に現れた。それによると、「ようやく動きが分かりました。五郎蔵は半年前に江戸にやって来たが、女連れらしい。真岡で水商売をしていた“お欣”(小園蓉子)という艶年増だそうです」という事が分かった。平蔵は、あの女だなと推量し、伊左次に寮の見張りを命じた。しばらくすると、伊左次が「あの女は、小菅の外れの荒れ小屋へ。見張りの男は間違いなく“死針の五郎蔵”の手下でした」と報告にやって来た。五郎蔵の隠れ家と認めた平蔵は、与力・本庄へ知らせてやれ、と酒井を差し向けた。本庄の口上は「長谷川平蔵様、直々にご出馬され同席願いたい」というものであった。さっそく北町奉行所と火盗改メ合同での出役となったが、平蔵は酒井に「どうもおかしい、妙に芝居臭い。この捕り物は儂に何かを見せつけようとしている節がある」と言い出した。

Photo_9 小屋の中には男が一人脇腹を刺され殺されていた。伊左次に面体を検めさせると、“死針の五郎蔵”に間違いない、という。空の金箱が転がしてあり、本庄は「これは金の分配で殺されたものに相違ない」と断じ、「殺されてまだ間がない、近くを探せ」と命じた。だが一人も見当たらない。すると小屋の中には抜け穴があると分かった。今まで誰も小屋から出てこなかった、という伊左次と火盗改メは面目丸つぶれである。が、与力・本庄は火盗改メらを責めなかった。お調子者の木村忠吾だけが本庄殿は立派な方だ、と褒めちぎっているのだが、平蔵は「この一件、与力に任せてはおけぬ」と呟いた。死針の五郎蔵の体は窶れ果て、手足には縛った跡、長いこと監禁されていた証拠だ、と平蔵は言う。

Photo_10 酒井と伊左次が“お欣”を見つけた。祭りで賑わう境内へ紛れ込み、御輿の小屋へ入って行った。するとそこには与力・本庄が待っていたのだった。お欣は本庄に江戸を出るための四人の子分たちとの手形の手配を頼み、「金はたっぷりあるんだし、良い家を見つけておきます。半年先にはきっと来てくださいね」と鼻声を出してねだっている。本庄は、五年の寡婦暮らしの末、据え膳を喰った盗人の情婦“お欣”と通じ、二件の押し込みを黙認、大丸屋の商売敵きを消す事により商いの独占を幇助し、娘には同心・松尾を養子に迎え、己は隠居をしてお欣と他国でのんびり生きながらえよう、と勝手な絵図を描いていたのであった。が、こうして絡繰りは平蔵と酒井の知る所と成った。

 火盗改メ役宅へ本庄の娘“美代”が訪れ、何事にも控えめな酒井に代わり自ら酒井との婚儀の話を持って来たのであった。用部屋にいた酒井に「美代殿が参っている。祭りにでも連れて行ってやれ」と言い、「本庄源八郎のことは儂に任せろ」と言った。

Photo_8 平蔵は単身、本庄の屋敷へ行くと、本庄は手形を隠した。平蔵は「おぬしも親ならば、娘の幸せを考えてやれ」と穏やかに諭した。もはや逃れられぬと観念した本庄は平蔵と共に、盗人どもが集まっている大丸屋の土蔵へ行く。本庄はお欣と大丸屋を追い、成敗しようとするが逆にお欣の簪でうなじを刺されながらも一太刀を浴びせ、お欣を斃した。他の者どもは平蔵によって全員斃された。こうして、真相は闇へ……と思われたが、本庄はすべてが書かれた遺書を娘に残していた。美代は、亡き母の実家がある三河へ行く、という。こうして、酒井祐助の儚い恋は終わりを告げた。 

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鬼平犯科帳 '69 第二十三話



Photo_32監督: 野長瀬三摩也  原作: 池波正太郎  脚本: 桜井康裕

出演: 弓恵子 (おきん) 宮坂将嘉 (玉屋平兵衛) 稲垣隆史 (音吉) 柳谷寛 (弥五郎) 伊藤惣一 (鎌吉) 橋爪秀雄 (与七) 神木真一郎 (酒巻重八) 瀬良明 (寿司屋の親爺) 渡辺千世 (茶屋のお女将)

Photo_33【ものがたり】 深夜の街を火盗改メが賊を追っている。料亭“玉屋”の奥座敷では、主の平兵衛(宮坂将嘉)と女房のおきん(弓恵子)が寝ていたが、物音に気づいた平兵衛が襖を開けると、そこには盗賊の一人が、「見逃してくれ、後生だから」と震えている。そこへ火盗改メが詮議のためやってPhoto_34来たと告げる声がした。黒装束の男を押し入れに隠し、平兵衛は店へ出て行く。残ったおきんに押し入れから顔を出し、ニヤリとしている。おきんは驚いた。盗人は音吉(稲垣隆史)といい、麦めし茶屋“赤大黒”の酌婦だったおきんと、地回りのならず者であった音吉との奇妙な巡り会いであった。

 凶悪な盗人“百足(むかで)の秀五郎”を追い込んだのだが、一人として捕縛出来ず取り逃がしてしまった同心・酒井は長谷川平蔵に詫びていた。「密偵を全員集め、秀五郎の探索に充てろ。火附け、押し込み、惨殺と、これ以上の跳梁は許さん!」と酒井に命じた。

Photo_35 玉屋の主人・平兵衛は、外出しようとして、おきんに「早く帰ってください。夕べのような事のあった後で、怖い」と言われた。平兵衛が出かけた後、音吉が現れ、おきんを強請ろうとするが、「昔のような訳にはいかない。旦那様はすべてを知った上であたしと一緒になったんだ」というと、右の二の腕の二筋の入れ墨を見せ、「これは誰のために出来たと思うんだ」と凄む。「おめえが俺を売ったおかげで、三年の島送りになったんだ。おめえの朋輩からちゃんと聞いたんだぜ」と言った。平兵衛を殺れ、と言いだし、「平兵衛が死ねば玉屋の身代はおめえのPhoto_39 物だ。一緒に存分に楽しもうぜ。承知するなら段取りは俺が付けてやる」と誘うが承知しない。「おめえの両親は六ツの時に盗人に焼き殺されたんだってなぁ。おめえだけ親戚の家に泊まっていて助かったっていうじゃねえか。その下手人は平兵衛なんだぜ」と言われ、驚くおきん。「俺だって、この道に入って初めて知ったんだ」と言った。また、「麦めし屋に鎌吉という男が出入りしている。この男は金で人殺しを請け負う“五日目の鎌吉”と異名をとる男に頼めば、五日の家には殺ってくれるぜ」とたたみ込み、「仇の男に抱かれて、くやしくないのか」ととどめを刺した。

Photo_40 呆然としたまま店を出たおきんは、橋の上まで来ると下駄の鼻緒が切れた。そこへ病気のはずの弥五郎がやって来た。平兵衛は嘘までついて何処へ出かけたんだろう、と一つの疑いが、次の疑いを呼んだ。毎日線香をあげている仏壇も、火付けで死んだ者たちへの供養のつもりなのか。おきんを抱いている時も片時も離さない脇差しは、何かを誰かを恐れて離さないでいるのか……と。

Jpg_3 女房になって二年が経っていた。おきんは両親の墓に参っていた。そこへ平兵衛が「明日は、十五年前に店を出した縁起の良い日だ。お前にも帳場に座ってもらおうと思う」と言い、「いきなり帳場へ座らせたのでは、奉公人たちに苛められたりして、お前が出て行くなどと言いだしゃしないかと今日まで延ばしていたんだ。でも、もう奉公人たちとも馴染んだし良いんじゃないかと思う。最初から玉屋の身代Photo_41Photo_54はお前に全部譲るつもりでいたんだから」と言われ、泣きじゃくるおきん。その帰り、花屋の弥五郎のところへ寄ろうと二人でやって来たが、丁度侍が妻女を連れて見せに来ていた。その武士の印籠を二人が見ているとも知らず、掏摸取ったのだが、武士に知られてしまい斬られようとする所へ平兵衛が武士に体当たりし、印籠を弥五郎の手から奪って走り逃げてしまい、おきんはただ呆然と立っている。

Photo_42 渋川の与七(橋爪秀雄)と音吉が連れ立って寺の門前から入って行く。与七は百足の秀五郎の片腕、知恵袋といわれる男だった。だが、与七は一早く密偵の伊左次が居ることを察知し、音吉に「逃げろ!」と言い、自Photo_43 分も逃げる。伊左次は火盗改メへ出向き、深川不動横の新兵衛店で、秀五郎の身内の与七と音吉を見かけたが逃げられてしまった、と報告した。その時、「玉屋」という言葉を数回聞いたとも言った。同席した酒井は「下谷・広徳寺門前の料亭です」と付け加えた。

_2 おきんは、麦めし茶屋で鎌吉に会い、平兵衛殺しを百両で依頼した。その晩、平兵衛はおきんに「儂は、二十年前に弥五郎と組んで尾張・三河から美濃にかけて荒らし回った盗人だった」と語った。墓参りの後、あのようになってしまい、おきんは口も利いてくれない。平兵衛は居たたまれなくなったのであった。鎌吉に依頼した日から四日間平兵衛は家から一歩も出ず、五日目に同業の寄り合いがあるといって大川端の料亭へ出かけて行った。弥五郎が玉屋に現れ、「旦那様がPhoto_44私を見舞ってくれたと言って外出した日、実は向島へ寮を買いに行きなさったのだ。おかみさんの名義でね」というが、「もうそのような甘い言葉には騙されない。帰っておくれ」と取り付く島もない。平兵衛は、寄り合いの帰りに雨であったが寿司屋へ寄り、駕籠を呼んで帰った。その後を尾ける男が一人。おきんは、仏壇の前に座り、自分の喉を出刃包丁で刺そうとしている所へ、女中が「旦那様がお帰りになりました」と知らせた。

Photo_45  おきんは、麦めし茶屋へ行ってみた。女将に鎌吉の住まいを聞こうとすると、一昨日愛宕下で野良犬に噛まれたのが元で狂い死にした、と聞かされた。五日目に平兵衛が生きていた事を納得した。暫くして、おきんは晴れて玉屋の帳場へ座った。平兵衛は元は武士で、小野伝十郎という者を斬り、その倅から仇と狙われる身だったのであり、その護身のための脇差しだったのである。

 鎌吉が死んだ、と伊左次が報告にやって来た。鎌吉は玉屋の内儀と麦めし茶屋で会っていた、とも告げる。まだ、平蔵にはそれらの繋がりが分からずにいたのだ。Photo_51
Photo_46 玉屋の女中が、「変な人から預かった」といって、おきんに付け文を渡すと、おきんは店を出た。すると、店先に浪人者が立っている、それを避けて音吉の待つ場所へ行くと、鎌吉より腕の確かなのを見つけた、五十両だとさ、という。驚くおきんに、もう後戻りは出来ない、亭主殺しの相棒だ、と言われる。

Photo_48  店に帰ると、平兵衛はたった今出かけたといわれ、おきんは寿司屋へ探しに行くが、旦那は来ていないと言われて、戻る途中で火盗改メの酒井に呼び止められた。そしてそのまま火盗改メ役宅へ行き、平蔵に事の一部始終を告げ、助けを乞うのであった。平蔵は「そなたの両親を焼き殺したのは平兵衛ではない。荒綱の鴇(とき)という盗人で、一昨年に布田の宿で野垂れ死にした。平兵衛の仕業などと音吉が作り話を吹き込んだのだ」とおきんに告げた。その頃、平兵衛は弥五郎の家に居た。だが浪人者に尾けられており、弥五郎の家からの帰り道を待ち伏せされたのだが、逃げ伸びて弥五郎の家へ戻った。弥五郎はPhoto_49玉屋へ赴き、「旦那様はもうここへは戻らない。有り金を持って、明後日に大井の六地蔵で待っている、と言いなすった」と言う。おきんは弥五郎に、このまま火盗改メ役宅に出向き、すべてを話してくれるよう涙ながらに頼んだ。すると弥五郎は「そんな事をしたら一生島送りか、悪くすると磔・獄門だ」と言うと、「あたしと旦那様はこのままじゃ添い遂げられない。逃げたって同じ事、いつかは捕まる。それならあたしも一緒に死ぬ覚悟でいる」と打ち明けられ、弥五郎も観念した。

Photo_52 二日後、おきんは旅支度で店を出た。近くのめし屋で飲みながら、与吉と音吉、それに人殺しの浪人がおきんが通るのを待っていた。おきんを尾け、二人が出合った六地蔵で、いきなり浪人が斬りつけた。助けに入ったのは火盗改メ方の長谷川平蔵であった。音吉も加勢するが、容赦するな! との平蔵の言葉に、酒井は音吉をPhoto_53斬殺、平蔵も浪人者を斬って捨てた。観念した平兵衛は、「お手数をお掛け致しました」と神妙に腕を出したが、「浪人者は仇ではない。ただの人殺しだ。信州の高藤の浪人で酒巻重八という手配の者だ」と告げ、「恵比須の平兵衛の罪は、二十年の歳月がとうに洗い流しているさぁ」と粋な計らい。伊左次が引いてきた馬に跨がり、酒井と共に駆けて行った。

【あとがき】ストーリーは良いのですが、話の辻褄が合わないという箇所が何度も出て来ます。もっとも一時間足らずの番組ですから、仕方ないのでしょうが、もう少し緻密に計算された脚色が欲しかった、と感じた作品でした。

Photo_55 玉屋平兵衛役の宮坂将嘉は、往年の二枚目俳優“菅原謙二”さんにそっくりです。菅原さんは吉右衛門版では、「盗賊二筋道」で高萩の捨五郎という良い役所で出演しています。

 弓恵子さんも、娘役から悪女までこなした有名な女優さんです。

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鬼平犯科帳 '69 第二十二話

血  闘

Photo_18監督: 船床定男  原作: 池波正太郎  脚本: 小川英

出演: 松本幸四郎 [八代目] (長谷川平蔵) 竜崎勝 (酒井祐助) 市川五百蔵 (竹内孫四郎) 池田駿介 (山田市太郎) 北村陽一郎 (山崎国之進)

ゲスト: 富士真奈美 (おまさ/おきく) 山本耕一 (吉間の仁三郎) 天本英世 (三井伝七郎) 中庸介 (竜野又蔵) 鶴賀二郎 (升屋の手代・利兵衛) 西村惇二 (船頭・由松) 山田禅二 (茶店の主人) 肥土尚弘 (矢助) 尾崎孝二 (浪人) 渡辺貞夫 (浪人) 柿木香二 (浪人) 巌金四郎 (鶴の忠助) 笠井ひろ (升屋の女中およね)

Photo_19【ものがたり】 天明八年の春、浅間山大噴火、大火、大飢饉とうち続く天明の凶事もようやく収まり、平穏な日々が続いていた。市中見回りの途中、行きつけの門前にある茶店へ立ち寄る平蔵と竹内。茶屋には先に来てきた女が甘酒を飲んでいた。相手も平蔵に気づき、ハッとした様子であった。平蔵らも甘酒を注文し、ふと横を見るとすでに女の姿は消えていた。まさかその女が“おまさ”であり、今ではPhoto_20盗人の引き込みをしているとは思わなかった。二十年ほど前、本所界隈で放蕩無頼をしていた若き日の長谷川平蔵。その頃、継母との折り合いが悪く、土地のごろつき共を従えて酒と喧嘩に明け暮れており、「盗人酒場」という妙な屋号の店に入り浸っていた。以前は盗人であった鶴(たすがね)の忠助とその娘、幼きおまさであった。

Photo_21 おまさは、盗人“吉間(よしま)の仁三郎(山本耕一)の引き込みとして、油問屋“升屋”に住み込んでいた。請け人になってくれた升屋の手代“利兵衛”(鶴賀二郎)は事ある毎に“おきく”と纏わり付いてくる。升屋は店の中に塀を建て、その中に金蔵や土蔵があった。盗人一味はこの金蔵の錠前の鍵の在処をおまさに探らせ、押し込み当夜は店に招き入れるための引き込みを受け持っていたのである。だPhoto_22が、しつこく纏わり付く利兵衛を誘い出すと、仁三郎らは利兵衛を脅すのではなく斬殺してしまい、「どうせ今度のおつとめは皆殺しだ」と盗人の浪人者の一人“竜野又蔵”(中庸介)が言った。おまさは嫌気がさして、昔馴染みの平蔵に訴え出たのであった。

Photo_23 平蔵は“吉間の仁三郎”まったく聞かぬ名だと言うとおまさは「熊谷の惣十という親分をご存知ですか。その右腕と言われ、表には決して出なかった盗人なんです」と言う。押し込み先、その日取り、盗賊の名前、人数など皆目分からない、仁三郎とはそれほど用心深い男なのであった。平蔵はそれを知る手立てはただ一つ、おまさにこれまで通り、盗人の仲間でいてもらいたい、と頼むのであった。

Photo_24 盗人仲間の吉間の仁三郎は、以前父親の鶴の忠助が盗人稼業から足を洗う際、橋渡しをし、「盗人宿を商い、その時だけ手を貸す」という条件で、殺されずにやってこられたのであり、おまさは言わばその恩義から断り切れずに盗人の道に入ったのであった。だが、その父も他界し、これまでは人を殺める事なくやってきたのだが“畜生ばたらき”と知って縁を切る気になったのだ。

Photo_25Photo_26 火盗改メとの繋ぎは、門前の茶店と手筈を決めたのだが、その日に限って誰も出張って来なかった。狂人が刃物を振るっている、という事件に役宅の者が出払っていたのであった。茶店の主人が清水門外の火盗改メ役所へ注進するのを尾けていた吉間の仁三郎の手下・矢助は、おまさが密偵だと気づき、墓地で繋ぎを待つおまさは拐かされ、盗人仲間の浪人たちが待つ、荒れ屋敷に連れ込まれるのであった。

Photo_27Jpg_2 拐かされたおまさであったが、平蔵らに見せた“飾りを付けた縫い針”が現場の墓地に落ちていたのに気づいた平蔵は、落ちている針を頼りに、おまさが拐かされ押し込められている朽ちた屋敷跡を発見する。近くを流れる川岸にいた船頭の由松に、「急ぎ、火盗改メの役宅へこの居所を知らせ、応援に来るように……」と託すが、由松は途中で暴れ馬に蹴られてしまい連絡に手間取ってしまった。

Photo_28 火盗改メ役宅へ知らせてから三刻余り経つ、あまりに時間が掛かりすぎる。もやはこれ以上は待てぬ、と平蔵は単身一味の巣へ乗り込んだ。腕の立つ浪人者・三井伝七(天本英世)と吉間の仁三郎が立ち話をしている。「あの女、なかなかの物だ。体が持つかな」と言い、「何、構やしませんよ」と言う仁三郎。歯噛みをする平蔵は、おまさが軟禁されているとみられる部屋へ入って行くと、汚されてしまっPhoto_29た“おまさ”が俯せになっており、横で矢助が酒を飲んでいる。次のおまさのお相手が来たのかと振り向く矢助を斃し、おまさを畳を剥がしその下へ匿う。浪人一人を刺し殺すと、凄まじい声に一味の者が集まって来た。盗人一味の三井伝七郎の一太刀を受け、最早これまで……と思われた矢先、間一髪火盗改メの応援が到着し、一味をことごとく打ち倒した。

Photo_30【中村吉右衛門編】船頭の由松が注進に向かうが、相模の彦十(江戸家猫八)である。おまさが登場するのは、同じ「決闘」が初回であった。オリジナルでは、おまさが茶店で休んでいるところへ平蔵と竹内がやって来るPhoto_31が、吉右衛門版では、茶店で平蔵らが休んでいる前をおまさが目礼して素通りする、と多少違っている。

【中村吉右衛門版】梶芽衣子(おまさ) 磯辺勉 (吉間の仁三郎) 岩尾正隆 (三井伝七郎) 唐沢民賢 (堀場陣内)

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鬼平犯科帳 '69 第二十一話

浅草、御厩河岸

Photo監督: 高瀬昌弘  原作: 池波正太郎  脚本: 安倍徹郎

出演: 松本幸四郎 [八代目] (長谷川平蔵) 竜崎勝 (酒井祐助) 池田駿介 (山田市太郎) 市川五百蔵 (竹内孫四郎) 北村陽一郎 (山崎国之進)

ゲスト: 西沢利明 (松吉) 木村俊恵 (お梶) 香川良介 (海老坂の与兵衛) 河村憲一郎 (卯三郎) 灰地順 (彦造)

【ものがたり】 寛政二年、甲州・石和で火盗改メは、?(いすか)の喜左衛門一味を捕らえた。水車小屋で一味の者が押し込みの支度をしているところを絡め捕ったのであった。錠前外しの松吉(西沢利明)は、腕が良いのを見込まれて江戸から助働きに来ていて一緒に捕縛されたのである。

Photo_2 火盗改メの白洲で平蔵は松吉に向かい、「お前は大層親思いだそうだな。中風で寝たきりの父親・卯三郎(河村憲一郎)が心配であろう、会わせてやる」と言い、戸板に乗せた卯三郎に会わせた。そして「一つだけ尋ねる。お前を手引きしたのは誰だ。喜左衛門に橋渡しをしたのはどこの誰だ」と問い詰めた。横から酒井が「申さねば病気の父親を責めるぞ!」と脅す。だが卯三郎は「おめえは盗人だ。殺されたって吐くんじゃねぇぞ」と松吉に命ずる。平蔵は「成る程、この親にしてこの子ありか……」と呟き、親子二人同じ牢へ閉じ込められてしまう。卯三郎は松吉に「犬にだけはならないでくれ」と念を押す。だが、卯三郎の体を気遣う松吉は、とうとう「お役人様、お役人様!」と音を上げてしまったのであった。

 卯三郎は越中・伏木の生まれで、松吉が子供の頃は越中富山の薬売りをしており、あまり家には寄り着かなかった。あちこちの親方の所でおつとめ(盗人)をしていた。松吉が八才で母親と死別した後、卯三郎は行方知れずであったが、三年前の雪の降る日に品川の宿場外れで、伝馬町の牢を出たばかりで乞食のような形(なり)をして雪の中で行き倒れになっていたのを、一目で父の卯三郎だと気づき、家に連れて帰り今では一緒に住んでいるのだ、と松吉は語った。

 平蔵は「それから二人で盗人をしてきたんだな」と問うと、松吉は「とんでもねえ、親爺はずっと寝たきり。金が掛かるところへ昔の仲間からの誘いに乗ってしまい、馬鹿な事をしちまった……」と泣いている。堅気になりたい、という松吉の正直さに、「本来ならば、このまま伝馬町送りだが、今回は特に差し許す。卯三郎を連れて帰るが良いぞ。ただし、これからの暮らしは酒井の指図を受けるのだぞ」と言われたのである。

Photo_3 それから三年後、浅草・御厩河岸で本業の錺職(かざりしょく)の傍ら、同心・酒井の忠実な手先を続けていた。品川の遊郭で馴染みだった女“お梶”(木村俊恵)と所帯を持ち、しばらくは平穏な日々が続いた。ある日、女房のお梶が笊一杯の泥鰌を買って来て松吉Photo_4に見せ、「これでたったの十文なんだよ」と言いながら、「今日はあたしが煮てみようか」と言うが、「いや、駄目だ。こいつだけは俺に任せろ。お前の味付けじゃ、泥鰌が成仏できねえよ」と言う。お梶は「どこで覚えたんだい?」と聞く。松吉は泥鰌の味付けは親爺に教わったと言った。「俺の田舎じゃ、新子泥鰌といって小指の先ほどの小さいのを煮るんだ」と話す。お梶は「お前さん、昔の話をする時は嬉しそうに話すんだねぇ、うらやましいよ」と言う。お梶には身内が一人もいなかったのである。

Photo_5 ある日、松吉のところへ昆布を商う松前屋の番頭“彦造”(灰地順)と名乗る男がやって来て、主人が鍵をなくして開かなくて困っていると、小箱を出した。松吉はギョっとした。誰に鍵の事を聞いて来たのか心配になったのである。彦造は「以前、河岸の魚嘉さんで鍵を作って貰った、と伺いましたものですから」と言うので松吉はすっかり信用してしまった。しかも、その小箱は南蛮渡りのめずらしい物であり、松吉の胸は躍ったのであった。夜、作業場で熱心に鍵を作っている松吉にお梶は「誰にも開けられない鍵を作って開けちまうんだから、泥棒にでもなったら、きっと大儲け出来るよ」と笑いながら言うと、「馬鹿野郎、何て事云いやがんでえ」と凄い剣幕であった。お梶はあやまったが、松吉は昔の稼業の錠前外しの事が後ろめたかったのである。

 夜明けになって、ようやく鍵が出来上がり小箱は開いた。すると綺麗な音が流れ出した。びっくりした松吉はお梶を呼び、箱を開けてお梶にも音を聞かせてやる。松吉は今でも錠前外しの腕が鈍っていない事が嬉しくて堪らなかった。

Photo_6 鍵が開いた小箱を持って、指定の寺へやって来た松吉に彦造は、「流石だねえ、錠前破りの松吉さん」と云われ驚いた。「あんたじゃなきゃならない仕事があるんだが、一口乗らないか。頭は“海老坂の与兵衛”(香川良介)だ」と言われるが、「俺はすっかり足を抜いたんだ」と一度は断る。彦造に「あんたは断れねえよ」と言われて不安になった。

 家に帰ってからも彦造の言った言葉が気になっていたが、火盗改メの密偵だということは忘れてはいなかった。そこへ酒井がそっと忍んで来た。酒井に気づいた松吉は外へ出ると、「海老坂の与兵衛を知っているか。親爺と同じ越中の生まれだそうだが、突然江戸に現れたと聞き込みがあったのだ」と訊かれ松吉は「さぁ、一向に存じません」ととぼける。「同国の誼で卯三郎に会いに来るかも知れぬ。もし現れるような事があったら家の軒に菅笠を掛けておけ。俺の方から渡りを付ける」と言われた。

_2_2 松吉は悩んでしまい、布団を引っ被って横になってしまい、お梶が呼んでも返事もしないていた。二階に寝ている卯三郎に呼ばれ「海老坂の与兵衛お頭は江戸で最後のおつとめをなさるんだ。おめえの錠前外しの腕を名指しで呼んで下さったんだ。お受けしなくちゃいけねえ」と言っている所へ、天井から彦造が降りて来た。海老坂の与兵衛の名代で卯三郎の見舞いに来た、と言う。彦造は、明後日の昼、目黒の不動まで来て欲しいと言い残し、去って行った。卯三郎は「この仕事を受ければ盗人仲間にも顔が立つんだ」と哀願されてしまった。二階から降りてきた松吉は菅笠が目に入った。すると平蔵の顔が浮かぶのであった。平蔵と卯三郎の板挟みになり苦しむ松吉であったが、菅笠を軒下へ吊すのであった。眼の前の井戸端で洗い物をしていたお梶は「何さ、こんな物を吊したりしてさ」と言って、菅笠を仕舞ってしまう。

Photo_7 約束の目黒不動へ出向いた松吉は、待っていた彦造に仕事を断るが、それなら与兵衛本人に直に断るのが筋だろう、といわれ与兵衛の家まで向かった。本人に会うと断りきれず、押し込み先、本郷一丁目の醤油・酢問屋“柳屋吉右衛門”方の絵図面まで見せられてしまった。海老坂の与兵衛は「今度のおつとめは十五人ほどでやるつもりだ。以前は平十という錠前外しが居たのだがあの世へ行ってしまい、今度の仕事はあんた次第なのだ。江戸にはもう代わりが居ないようだから、嫌だと言われれば止めるつもりだ。明日にでもこの家を引き払って田舎へ帰るつもりでいる」と言った。松吉は「鍵を見てみないと……」と言うと、与兵衛は「お安いご用だ。柳屋へは三年前から手下の“善太”を下男として住み込ませてあるから、大丈夫だ」と言われ、松吉は承諾してしまった。

 その頃、松吉の家では寝たきりの卯三郎に食事の面倒をみているお梶に、「松吉は俺の跡目を継ぐ立派な盗人なんだ」と今度の海老坂の与兵衛の事まで全て話して聞かせる。驚いたお梶は何も言えないでいた。

 松吉が帰ると、部屋は真っ暗であったが、部屋にはお梶が座っている。松吉が灯りを点すと、「お前さん、短い間でしたがお世話になりました。あたしは本当に幸せでした」と別れの挨拶をする。松吉が「何だ、いきなり出て行くとは、親爺に何か言われたのか」と尋ねた。卯三郎は得意になって、お梶に以前の稼業の事や今度の海老坂の与兵衛のおつとめの事まで全部しゃべった、と言い、行く宛てもないからまた品川へでも行くのだ、と言う。引っ込みのつかなくなった松吉は「実はお上の御用をしているんだ。火盗改メ方の長谷川平蔵様の配下なのだ。今その証拠を見せてやる」と言い、菅笠を軒先に吊した。「こうしておくと、火盗改メの同心の方が繋ぎを取ってくるんだ」と言った。

 同心の酒井が松吉の家へ忍んで来た。だが、与兵衛の手下で彦造という者が卯三郎の見舞いに来た、とだけ告げる。

Photo_8 次の晩、松吉は柳屋へ蝋型を摂りに行く。善太という下男の手引きによって簡単に仕事は終わった。家に戻った松吉は蝋型から鍵の製作に取りかかった。心配そうに見ているお梶に「これも御用の内なんだ」と言い訳する。出来上がった鍵を届けに松吉が出掛けた後、お梶は菅笠を軒に吊した。

 火盗改メ役宅で平蔵を前にして、「一つお聞きしたい事があるんです。盗人の身内から訴え出れば、罪が軽くなるというのは本当でしょうか」と尋ねた。お梶は、「松吉を捕らえて欲しい」と哀願した。

 その頃、松吉が出来上がった鍵を届けに行くと、海老坂の与兵衛は「今度のつとめは止めにした」と言う。引き込みの善太が卯三郎と同じ中風で倒れてしまったのだ、と言う。その時、火盗改メの手が回ったと彦造が駆け込んで来た。与兵衛は松吉が裏切ったのかと思ったが、松吉の裏切っちゃいない! という言葉を信じ、「お前さんまで巻き添えに出来ない」と掛け軸の裏に細工された“抜け穴”から逃がしてやった後、海老坂の与兵衛一味は捕縛された。

Photo_9 平蔵は酒井の報告で、松吉一家が江戸を売った事を知った。「越中へでも行ったか……」と平蔵は呟き、「ずいぶんと働いてくれた。一家は放っておけ」と酒井に命じた。その頃、大八車に卯三郎を乗せ、松吉とお梶が仲良くそれを引いて、生まれ在所の越中を目指して行くのであった。

Photo_10【あとがき】 新旧どちらも良い作品ですが、個人的にはオリジナルの方が好きです。ラストシーンには、しんみPhoto_11りさせられますが、ほっと胸を撫で下ろすような気がします。

 中村吉右衛門版の常連、本田博太郎(松吉)さんも捨てがたいです。良い役者さんです。浅利香津代(お梶) 田武謙三(卯三郎) 岩井半四郎(海老坂の与兵衛) 石山雄大(彦造) 善太(遠山二郎)

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鬼平犯科帳 '69 第二十話

山吹屋お勝

Photo_37監督: 小野田嘉幹  原作: 池波正太郎  原作: 野上龍雄

出演: 松本幸四郎 [八代目] (長谷川平蔵) 竜崎勝 (酒井祐助) 古今亭志ん朝 (木村忠吾) 藤田進 (三沢仙右衛門)

ゲスト: 久我美子 (お勝/おしの) 中村敦夫 (関宿の利八) 井上昭文 (霧の七郎) 平井昌一 (政) 宮川洋一 (弥吉)

Photo_38【ものがたり】 平蔵の従兄弟・三沢仙右衛門(藤田進)の屋敷に同心・木村忠吾(古今亭志ん朝)が呼ばれた。めかし込んで鏡を片手に髪を撫でつけている。巣鴨きっての御大尽の仙右衛門が王子権現の茶酌み女“お勝”(久我美子)に惚れて、今日もうさ忠を呼び、茶屋遊びに出掛ける。茶屋“山吹屋”のお勝の事を教えたのがうさ忠であった。

Photo_39 仙右衛門が平蔵の所へやって来て、何が何でも“お勝”という女を後妻に迎える、と言う。倅どもが反対しているので、平蔵に説き伏せて欲しいと談判にやって来たものであった。閉口した平蔵は、「相手の女はいくつになる」と尋ねると、二十八だと言う。「仙さん、お前さんはいくつになった」と言うと、五十六だと言った。「丁度、半分か……」とため息交じりの平蔵に、「歳などはどうでも良い。お勝は死んだお袋さまの乳の臭いがするおなごなのだ。皆が反対するなら家を出てお勝と暮らすと、倅どもに言ってくれ」と粘っている。やっと仙右衛門を帰し、忠吾に「おぬしのせいだぞ、何とかしろ」と不平を漏らした。

 お勝は、備前・岡山の生まれで、幼い頃に両親と死別、十九で象牙細工の職人と所帯を持ったが、子が出来ぬまま六年の後、死に別れた。その後、知り合いを頼って江戸に出て、数々の店で女中として働き、半年前から“山吹屋”で茶酌み女として働き始めたというものであった。

Photo_40 平蔵は山吹屋を訪れ、お勝を呼び「あぁ、良く寝た。今何時だ」と聞き、「四ツ(昼前)かぁ、それじゃあ酒を頼む。そちが行かずとも他の者に頼めばよかろう。暫しここで相手をしてゆけ」と言うと、「ご覧のとおり、立て込んでおりますので、どうぞご勘弁願います」というお勝の左手を取ると、何なく外して立って行った。

Photo_43 密偵・関宿の利八にその話をし、「普通、腕を捕まれたら手前に引いて逃げようとするが、その女は儂の鼻先へ腕を伸ばして外した」と言うと、茶屋勤めが長いなら、そのくらいの事は自然と身につくのではないか、と言う。関宿の利八は五年Photo_42前に平蔵に捕らわれた。当時は盗賊“夜兎の角右衛門”の身内であったが、一昔前“おしの”という引き込み女と良い仲になってしまい、角右衛門から掟を破ったのだからとケジメをつけ、それで許してもらったのであった。その相手というのが“おしの”という女、現在は“霧の七郎”の情婦で引き込み女、山吹屋の“お勝”である。

Photo_44 七郎の盗人宿の数珠屋“あぶらや”に盗人仲間が集まっている。「仙右衛門がぞっこんだというのに、未だに家に入れないのはどういう事だ」とお勝を責めている。「俺だって、自分の女を他人に抱かれるのを我慢しようってんだぜ。それとも誰かに義理立てでもしてるのか」と仲間の男たちを睨め回し、「なぁ、政(平井昌一)」と一人の男に声をかける。七郎の片腕の弥吉(宮川洋一)が、この中にゃあ一人だってそんな奴っあ、いませんぜ」と取り持った。

Photo_45 おしのは長屋に戻ると、政が待っていた。数珠屋を抜け出して来た、と言う。「どうも、親分は俺たちの事を気づいているんじゃないか」と心配顔で言いながら泣きっ面になっている。「こんなところを見られたら大変だよ」とおしのに促され部屋に入る。部屋の中で抱き合っている二人を、天井裏から利八が窺っていた。関宿の利八は“めしや”を商っているが、戸板に「當分の間、休業いたします」と貼り紙があり店を閉めていた。

Photo_46 山吹屋にお勝を迎えに駕篭が差し向けられた。それに乗り、着いた先の部屋には関宿の利八が待っていた。「鬼平に捕まったと聞いたけど、お仕置きは軽く済んだんだね。おかみさんはいるんだろ」と尋ねるおしのに、「あぁ、“めしや”を商っていて、ガキもいる」と答えた。おしのと政の関係を知った利八は二人を逃がしてやろうと決心していたのだ。袱紗を取り出し、「何にも言わず、この金を持って二人で逃げろ」と言う。暫く振りに会った懐かしい二人だったが、「お前さんもこの稼業の人だったんなら、そんな事が出来ないくらい分かっていなさるでしょう」と断り部屋を後にした。

Photo_47 雨の降る中、山吹屋の前で傘をさした二人の男が立ち話をしている。一人は弥吉、片方は政である。駕篭に乗って出掛けたお勝がまだ帰ってこないので、「俺は仙右衛門の屋敷を見てくる」といって弥吉は去って行った。残った政の背後から匕首を突きつけ、利八が藪の中へ連れて行き、「この金を持って、おしのと逃げろ」と言うが、俄に信じられない政は匕首を抜いて立ち向かって行く。利八の左小指を見た政は、「お前さん、関宿の利八さんか? 一昔前、俺と同じように掟を破り、指を詰めなさった利八さんだな」と突然言い出した。そして利八は「夜兎の親分は指で勘弁してくれたが、霧の七郎はそうはいかないぜ」と金を渡した。

Photo_52 火盗改メの役宅へ利八が現れ、平蔵と酒井を前に今までの事を話す。平蔵は、「今夜はこれで飲むしかないな」と一両投げて寄越した。利八が“めしや”に戻ると、火の消えた真っ暗な店の隅におしのが二刻ほど待っていた、と言う。「それじゃ、政とは会ってねぇのか」と利八は歯噛みする。おしのは「一度は断ったけれども、やっぱり政さんと逃げようと、あの時の金を貰いに来ちまった。恥ずかしい……」とうなだれている。そこへ忠吾が店に入ってくるなり、「お勝はどうした。俺は火盗改メを飛び出してから一日中お前を探したんだぞ」と言うのをおしのは店の調理場で聞いてしまった。おしのは「出刃を掴み、畜生、親切なふりをして騙しゃがったのか」と逆上して店を飛び出て行った。利八がおしのの後を追おうと出て来たところへ忠吾が、「女の足だ、まだ追いつける」と二人で追う。おしのは盗人宿の数珠屋“あぶらや”へ入って行くのを二人は見た。忠吾は急ぎ役宅へ応援を頼みに行った。

Photo_53 数珠屋の中では、捕らえられた政が瀕死の状態でおしのの前に引きずり出され、嬲り殺しにされてしまった。火盗改メが到着するまで待ちきれない利八はおしのを救うべく数珠屋へ飛び込んだ。が、多勢に無勢。利八も斃されてしまい、おしのも傷ついた。到着した火盗改メによって霧の七郎一味は斬殺された。利八を抱き起こした平蔵は「おしのは助かるぞ」と告げると、利八はそれを聞いて息を引き取ってしまう。

Photo_48Photo_49【あとがき】どの作品も内容は同じで、大差ありませんが、オリジナル版は前作の“平蔵を狙うより、倅の「辰蔵」を狙って失敗した霧の七郎が「山吹屋のお勝」を引き込みに使い、平蔵の従兄弟・仙右衛門宅へ入りこませ、金を盗んだ揚げ句、仙右衛門を殺してしまおう”という筋書きで、「霧の七郎」の続編になっている。

Photo_50Photo_51【中村吉右衛門版】風祭ゆき(お勝/おしの) 森次晃嗣(関宿の利八) 菅貫太郎(霧の七郎) 森田順平(政) 岡部征純(弥吉) 五味龍太郎(夜兎の角右衛門) 西岡慶子(お才) 北村和夫(三沢仙右衛門) 

【スペシャル版】床嶋佳子(お勝/おしの) 吉田栄作(関宿の利八) 平泉成 嶋田久作 金田明夫  監督: 石原興 脚本: 古田求

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鬼平犯科帳 '69 第十九話

霧(なご)の七郎

Photo_23監督: 小野田嘉幹  原作: 池波正太郎  脚本: 池田一朗

出演: 松本幸四郎 [八代目] (長谷川平蔵) 竜崎勝 (酒井祐助) 河原崎次郎 (長谷川辰蔵) 池田駿介 (山田市太郎) 市川五百蔵 (竹内孫四郎) 小高まさる (豆岩) 藤田進 (三沢仙右衛門)

ゲスト: 北村和夫 (上杉周太郎) 井上昭文 (霧の七郎) 松風はる美 (おとめ) 山本昌明 (与吉) 坂部文昭 (阿部弥太郎) 

Photo_24Photo_25【ものがたり】 火盗改方役所の門前に猫の死骸が三日続けてぶら下がっている、という嫌がらせが起きた。そして、とうとう人間の生首、という異常事態になって始めて長谷川平蔵の耳にも届いた。投げ文があり、それを平蔵らが見ると、汚い文字で書かれてあった。平蔵は、左書きと見た、そして紙から何か臭う、とその臭いの元であろう深川・木場の材木置き場へ同心の竹内を伴いやって来た。突然、数人の浪人どもに襲われるが、これを撃退し、一人を峰打ちにして捕らえた。捕らえた浪人の自白により、雇い主は小川や梅吉の実弟“霧の七郎”(井上昭文)と知れた。

Photo_26 霧の七郎の隠れ家では情婦“おとめ”(松風はる美)を相手に七郎が昔話をしている。「……兄貴が九ツ、俺が四ツの時、流行病で両親が死に、九歳の子供が四歳の子供を親代わりに育ててくれた」。その恩があり、人一倍強い兄弟愛で結ばれていた。「蜆売りの合間に、いろいろなおもちゃを作ってくれた……。今ではこの竹とんぼ一つしか残っちゃいねえ。こいつは俺の宝だ」と懐から出した竹とんぼを飛ばした。失敗続きの平蔵暗殺計画であった。すると情婦のおとめが「死ぬほど辛い目に遭わせる手立てだってあるじゃないか。子や妻を拐かし、いたぶって殺してやる。平蔵相手より楽だし、自分が殺されるより苦しい思いをさせられるんじゃないかねぇ」と言った。七郎はなるほどと考えたが、それにしても女って奴は何とも恐ろしい事を考えつくものだ、と思った。

Photo_27 神社で乞食のような格好の浪人“上杉周太郎”(北村和夫)をからかっているヤクザどもがいた。「お前らに馬鹿にされる覚えはない」と浪人が言うと、ヤクザどもは一斉に長脇差を抜いてかかっていった。茶店の親爺もびっくりして中へ引っ込んでしまったが、葦簀の陰からじっと様子を覗っている七郎がいた。さんざん叩きのめされ、ヤクザどもは逃げ散った。おっかなびっくり様子を見に出てきた親爺に「驚かせてすまなかJpg_3った。峰打ちだから心配するな」と言い、一杯茶をすすって立ち去ろうとした所へ、一部始終を見ていた七郎が「大したもんですねぇ、お侍さん」と現れた。浪人の腕を百両で買いたい、と申し出る。腹の虫が鳴く浪人を店に連れて行き、酒を馳走している。儂は上杉謙蔵と名乗り、七郎は“伊丹屋七兵衛”とお互いに偽名で名乗り合った。「ひと暴れして欲しいんですがね。長谷川平蔵の倅、辰蔵を拐かし、殺して貰いたい」と持ちかけられ、前金の二十五両を受け取ってしまった。

Photo_29 密偵の豆岩(小高まさる)が、中国筋でおつとめしていた二代目“霧の七郎”を江戸で見かけたという情報を持って火盗改メ役宅にやって来、こいつは先年獄門になった“小川や梅吉”の実弟であり、逆恨みして平蔵の命を狙っているのだ、と言う。すぐさま火盗改メによって七郎を見たという渋谷界隈を虱潰しに当たっているのを湯屋の帰りがけに、七郎Photo_30Photo_31の情婦おとめが気づいて、七郎に告げる。手が回る前にと七郎とおとめは隠れ家から出奔し、渡し場の茶店前で「今日は川崎泊まりだ。おとめ、おめえは先に行って待ってな」と言い、知らせにやって来ない子分たちが気になったが、七郎は上杉の首尾が気になり、最初に出合った金剛八幡へと向かった。

Photo_32 屋敷の一室で平蔵の倅・辰蔵(河原崎次郎)が唸っている。用人が「家で召し上がらず、外でゲテモノを食するからこんな事になるのです」と諫めているところへ、悪友の阿部弥太郎(坂部文昭)がやって来て、「一両で、素人娘と遊べるのだが……」と誘う。二人とも持ち合わせがなく、どうしたものかと暫し思案していたが、辰蔵は平蔵の従兄弟・巣鴨_2jpgの御大尽“三沢仙右衛門”(藤田進)に金を借りようと、仙右衛門の屋敷を目指した。七郎が残りは暮れ六ツ、金剛八幡の境内でと浪人・上杉と別れた。上杉は辰蔵の後を尾けた。地蔵の前で辰蔵が腹を抱え唸っている。そこへ上杉が現れ、「おぬしは長谷川辰蔵どのか」と尋ねると、辰蔵は「いかにも」と答えた。「実は、おぬしを殺してくれと二十五両の手付けを貰って頼まれたのだが、病気のおぬしを斬る訳にもいかんし、Photo_33困ったなぁ」と頭を掻いている。暫くして「どうだ、おぬし。儂に二十五両出す気はないか」と尋ね、「良いでしょう、二十五両出しましょうよ」と簡単に答えたが、「今、手元にはない。これから知り合いの所へ私も借りに行く所だったんですが、何しろ腹が痛くて……」と立てないでいる。ちょっと待っててくれ、と近くの葦に隠れて成り行きを見張っていた七郎の子分二人を、峰打ちで倒し縛り上げてしまった。上杉は「儂がおぶって行ってやろう」と辰蔵を背負って仙右衛門の屋敷へ向かった。仙右衛門が汚い浪人に背負われてやって来る辰蔵に気がついた。辰蔵は「伯父さん、父の役向きの金です、二十五両貸してください」と頼むと、「容易いことだが、平蔵さんは知っているのかね」と尋ねる。「勿論、父も承知の事です。二十六両にしてください。命にかかわる事です、急いでください」とちゃっかり遊ぶ金もついでに借りてしまった。

 帰り道でも辰蔵は上杉の背中に背負われている。「依頼人は誰なんです?」と聞いてみると、「それは言えぬ」と言い、「大方、どこかの娘を弄んだ仕返しなのではないか」と言うと、「父への怨みを持つ盗賊の一人でしょう」と辰蔵は答えた。上杉は己の身の上話を始めた。「父子二代、旅回りの剣術使いで、念流を使う」と言うと、辰蔵は「私も念流です」と言った。「私は剣術の方はさっぱりですが、師匠は強いですよ」「おぬしを見れば分かるよ。屁っ放り腰だからなぁ」とからかわれている。道場は市ヶ谷の坪井主水……と言いかけた時、「坪井主水は儂の親爺の弟子だ」と言い出した。「あぁ、儂は馬鹿者だ。又弟子を手に掛けるところだった」と己の頭をポカポカと殴っている。

 家に帰った辰蔵は、それまでのいきさつを平蔵に告げ、「上杉周太郎殿を市ヶ谷の坪井主水道場まで送って行くと、先生は大喜びされ、上杉も暫くは道場に逗留するといっていた」、と語った。平蔵は「依頼主は、霧の七郎とみてまず間違いはあるまい」と言った。

Photo_34 上杉周太郎は、七郎に手付けの二十五両を返すべく金剛八幡に居た。茶店の親爺は、今日一日お役人たちがうろうろしていたので誰も客がいなかったと告げる。暫くすると屋根の上から自分を呼ぶ声がした。ひらりと地上に降り立ったのは伊丹屋七兵衛だった。「首尾はどうです」と聞く七郎に、「病気の者を殺す訳にもいかなかった。だから手付けPhoto_35は返す」と言うと、いきなり七兵衛は刀を抜いた。そこをめがけて金を叩き返すと、猛然と打ち込んできた右手を払うと、七兵衛の右腕は斬って落とされていた。七兵衛はその場から逃げ去った。残された金を拾い集め、上杉は火盗改メ役宅へ……。

Photo_36 役宅の門前でうろうろしている上杉を見つけ、「やっぱり来ましたねぇ、父はやはり目が高い」と声をかけると、「こんな風体では……」と渋る上杉を潜り戸から辰蔵が中へ引っ張り込んだ。酒肴の膳のもてなしを受けながら、「探したんですが、どうしても一両足りません」と上杉が七郎から預かった金を平蔵の前に出した。平蔵は「構わぬからその金は取っておけ」と言われる。「世のため、人のために使うのなら良い、という訳ですな」と懐に仕舞い込む。それを見ていた辰蔵が「勿体ないなぁ」と呟くのを平蔵はぐっと睨んだ。

 第二十話「山吹屋お勝」を後編とする二部構成になっている。

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鬼平犯科帳 '69 第十八話

市松小僧始末

Photo_3監督: 小林恒夫  原作: 池波正太郎  脚本: 田坂敬

出演: 松本幸四郎 [八代目] (長谷川平蔵) 竜崎勝 (酒井祐助) 堺左千夫 (伊左次) 池田駿介 (山田市太郎) 北村陽一郎 (山崎国之進) 市川五百蔵 (竹内孫四郎)

ゲスト: 川口小枝 (おまゆ) 柴田侊彦 (又吉/市松小僧) 森山周一郎 (金次) 石井宏明 (六蔵) 野口元夫 (重右衛門) 大村千吉 (仙之助) 志摩燎子 (お峯) 山口譲 (太助) 辻しげる (彦太郎)

Photo_2【ものがたり】 寛政三年の頃、日本橋霊岸島界隈では、“嶋屋のおまゆ”(川口小枝)を知らぬ者はなかった。剣を取れば免許皆伝、怪力で、背が高く、売れ残り、男が寄りつかぬ、と噂されていたが、性格は明るい二十三の娘であった。

Photo_4 橋の上で人だかりがする。一人の若者が細く長く柿の皮を剥いている隣りで、男が大袈裟に感心している。侍が人垣を割って入り最前列で見始めた。腰には印籠が下がっている。若い方の男は“市松小僧”と異名のある又吉(柴田侊彦)、もう一人は兄貴分・仙之助(大村千吉)という掏摸である。仙之助はそれを狙い隣りへスルスルと移動し、今まさに掏摸盗ろうとした時、おまゆが大きな声で「あっ、危ない!」と発した途Photo_5Photo_6端、侍は仙之助の腕を掴み上げ、そのまま反対側の欄干に引っ張って行き、両手の甲を重ね、小柄(こづか)を差し貫いた。柿を剥いていた又吉が、「兄貴!」と呼んで駆け寄った。高笑いしながら去って行く侍に一矢報いようと向かっていこうとする又吉をおまゆは「あんたに歯が立つ相手じゃない」と止めた。又吉は、「覚えていろよ」と捨て台詞をおまゆに残し、兄貴分の仙之助を庇いながら逃げて行った。

_4 火盗改メの役宅へおまゆが道場の師匠と出稽古に来て、汗を流している。庭先で木剣を合わせているのだが、おもゆに歯の立つ者がいない。平蔵は酒井に手合わせするよう促した。一進一退が続いたが塀際まで下がった酒井におまゆの上段からの鋭い一撃が襲った。おまゆの木刀が折れた。折れた木刀の切れ端を掴んで酒井は唖然としている。平蔵は「壁のおかげで助かったなぁ、酒井」といって笑っている。おまゆはそれほど剣に優れていたのであった。

Photo_7 寺の裏にある小屋で墓守をしている男がいる。この男、“吹き矢の金次”(森山周一郎)と言い、仙之助、市松小僧の又吉を抱える掏摸の元締めである。

Photo_8 おまゆは家に戻ると番頭から、「お嬢様、お帰りなさいませ。呉服橋のおかみさんがお待ちでございます」と告げると、おまゆは面倒臭そうに奥へ入って行った。座敷には父・嶋屋重右衛門(野口元夫)、母・お峯(志摩燎子)、伯母らが並んで待っている。重右衛門がいきなり「つまらぬ話とは何だ!」と怒り出しPhoto_9た。呉服町の伯母も「彦太郎は、私の縁続きの者だし気心も知れているじゃないか。一体彦太郎のどこが気に入らないというの」と言われ、「じゃあ、お母っかさんも叔母さんも、どこが気に入っているの?」と逆にやり込めている。そこへ彦太郎がやって来たというので「あたしがお相手するわ」と出て行ってしまった。

Photo_11  彦太郎は土蔵の前までやって来るとおまゆを見つけ「うれしい、私を待っていてくれたんだね」と勝手によろこんでいる。「彦太郎さんは、嶋屋の身代だけが目当てなんでしょ」と言い、おまゆは「これが家の商売。荷ぐらい持てなくては嶋屋の主にはなれませんよ」といって、荷車に積んである荷を担ぎあげるよう指示する。格好をつけて荷を持ち上げてみせるのだが、腰を取られてフラフラとその場に座り込んでしまう有様で人足たちにも笑われてしまった。おまゆは、荷をポンポンと土蔵の中に仕舞い入れた。

_3_2Photo_22 又吉は、嶋屋の向かいの店でおまゆが外出するのを見張っている。やがて出てきたおまゆを尾けたが、逆に当て身を食らって悶絶する。おまゆは知り合いの船宿へ又吉を軟禁し、気づいた又吉に橋の上での一件の真相を話す。「あの侍、最初から気づいていて俺たちを嬲りやがったのか」と又吉も、侍に斬られる仙之助を逆におまゆの一声が助けた事を知った。又吉とおまゆは、あの日からお互いに惹かれ合っていた事を告白し、一夜を共に過ごしてしまった。おまゆ二十三、又吉十九の時であった。

Photo_21 嶋屋では、おまゆが昨夜から戻らないというので大騒ぎになっている。酒井が見回りの途中だと平蔵と共に嶋屋に立ち寄ると、主人の重右衛門が「娘が昨夜から戻りません。神隠しにでも遭ったのではないか、と女房のお峯と心配して探しているところです」と言う。そこへ、ひょっこり「ごめんなさい」といたって平気な顔でおまゆが戻って来た。「どこへ行っていたんだ」と詰問する父におまゆは一切答えない。優しい娘なのだが、一途に思う芯の強い所があるおまゆであった。嶋屋を出た平蔵は酒井に「男が出来たな……」と一言。

Jpg 今日も、船宿の一室におまゆと又吉が逢瀬を楽しんでいた。そして、おまゆは家に帰ると、父母に向かい「又吉という者と所帯を持ちたい」と突然打ち明けた。驚く重右衛門は絶対に認めない、と言い母も「何も、掏摸あがりの年下の男でなくても良いではありませんか」と涙している。おまゆは「店を継げなくて、ごめんなさい。身代は然るべき人を養子Photo_12にして継いでください。嶋屋の身代から離れて私を正直好いてくれた人なんです」と涙ながらに言うと、父は「そこまで決心しているなら、百両出してあげる。五年間待ちます、その金を元手に立派に所帯を張り通せたら、その時は改めて嶋屋に戻って来なさい。それまでは、親でもない娘でもない、嶋屋の敷居は跨がせない」とおまゆの気持ちを許してくれた。

Photo_13 密偵の伊左次が、吹き矢の金次を神田明神の境内で見かけたが、下谷の辺りで見失ってしまった。その頃、吹き矢の金次は仲間で古着屋の看板を出してはいるが、古物商の六蔵(石井宏明)の店で掏摸取って来た煙管入れを売りに来ていた。この店に火盗改メの手が回った。六蔵は役人を殺めていた為、火盗改メの出役となったのであるが、抵抗したものであったから斬殺されて果て、同席していた金次は得意の吹き矢が同心・竹内に命中し、怯んだ隙に逃亡してしまった。

Photo_14 金次は小屋へ逃げ帰ると、市松小僧の又吉に「火盗改メから逃げてきた。ここもすぐズラかるから支度しろ」と指図した。又吉は「あっしは、付いていけねぇ。堅気の女と所帯を持つ約束をしてしまった」と言い出す。仙之助は「あっしが、又吉の分まで稼ぎますから、嫌がる又吉を置いて、あっしを連れて行っておくんささい」と言うと、「てめえみてえな役立たずなんぞ、どうでも良いんだ。又吉、早く支度をしろぃ」刀を抜いてと命ずる。仙之助が「親分……」と再度言いかけた時、その刀で仙之助を斬り殺してしまった。又吉は、非情な金次を目の当たりにし、「誰がてめえみてえな野郎と一緒に行くもんか」と小屋を飛び出した。「野郎、待ちゃあがれ!」と追いかける。外は墓地である。又吉が墓地を縫って逃げて行くと、寺の坊主に火盗改メが何か尋ねているらしいところへ遭遇し、別の方角へ逃げ延びる。一方、又吉を追った金次は火盗改メに包囲されてしまい、捕縛されてしまった。が、金次の自白により市松小僧人相書が出来上がっていた。

Photo_15 半年後、広小路に小さい小間物屋“小嶋屋”を出したおまゆと又吉。平蔵と酒井がやって来た。「家の者にもこの店の宣伝をしてやろう」と贔屓になってくれる、と言う。そこへ荷を担いだ又吉が帰ってきた。「おまえさん、こちらは火盗改メの長谷川平蔵と酒井様」と紹介すると、一瞬又吉の顔が歪んだ。何事もなく店を出た平蔵と酒井であったが、酒井は市松小僧人相書を懐から出し、「又吉が市松小僧に相違ありません」とJpg_2言った。平蔵は「皆には言うな、そっとしといてやろうよ。だが暫くは目を離さぬよう、おぬし一人で頼む」と酒井に依頼した。幾月も過ぎた、又吉は堅気の商売を続けている。もう大丈夫だろう、と思われた矢先、兄貴分の仙之助の手を使い物にならなくした例の侍が向こうからやって来るのを又吉は見逃さなかった。「今日こそ、兄貴の仇を取ってやる!」と橋の上で印籠を掏摸取った。又吉から目を離さず始終尾けていた酒井に、掏摸の現場を見られていたのだ。橋の下で、掏摸取った印籠を握りしめ「やった、俺ぁとうとうやったぜ!」と呟く又吉に、酒井は「とうとう遣ってしまったな」と暗に神妙にしろと恫喝するが、荷を捨てて又吉は逃げ延びてしまった。

Photo_17Photo_18 酒井の知らせを受けた平蔵は、おまゆと又吉の店“小嶋屋”の一室に居た。又吉が酔って帰って来、そっと戸を叩いている。おまゆは家へ招き入れ、無言で出刃包丁を掴むと、平蔵の目の前で又吉の右手を掴み出刃を振り下ろした。驚いた平蔵だが、このおまゆの心根に免じて二人を許してやろうと決め、店に入って来た酒井に「市松小僧は死んだよ。たった今……」

Photo_19Photo_20【あとがき】 中村吉衛門版では、春風亭小朝(市松小僧)長与千種(おまゆ)が主演。この作品もほのぼのとして良かった。落語家の小朝は、「三匹が斬る」というテレビ朝日だったかテレビ東京で放映していた時代劇と同じスタイルでした。自毛を後結びしただけですからね。元プロレスラーの長与千種が、原作通り「強くて、優しい」のおまゆ、という感じが良く出ています。笑顔が可愛いんですね、長与さん。

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鬼平犯科帳 '69 第十五話

むかしの女

Photo監督: 高瀬昌弘  原作: 池波正太郎  脚本: 安倍徹郎

出演: 松本幸四郎 [八代目] (長谷川平蔵) 竜崎勝 (酒井祐助) 堺左千夫 (伊三次) 市川五百蔵 (竹内孫四郎) 北村陽一郎 (山崎国之進)

ゲスト: 沢村貞子 (おろく) 江見俊太郎 (井原惣市) 本間文子 (おもん) 長谷川弘 (砂田の彦兵衛) 梶哲也 (大丸屋万吉) 荒木保夫 (門前の仲吉) 森今日子 (おつる)

Photo_2【ものがたり】 川っ腹を徳利を吊り下げた大刀を担いで浪人者・井原惣市(江見俊太郎)が歩いてくる。土地のヤクザが数人待ち伏せていた。行く手を遮り兄貴株の門前の仲吉(荒木保夫)が「怪我しねえうちに、この深川を引き払ってもれえてえ。雷神党だか何だかしらねえが、乞食浪人集めて悪さするとは侍らしくねえ。夕べも不動の境内で、おめえさんの仲間Photo_3が大暴れしたというが、そういうことされちゃ、こっちの顔が丸つぶれなんだ」と凄んでいる。井原は「深川という土地が気に入っている。当分動くつもりはない」と言うと、「そんなに深川が気に入ったんなら、この土地で眠ってもらおうか」と匕首を出し襲いかかった。だが、腕が格段に違う。あっさり仲吉は斬られてしまい、仲間は散り散りに逃げて行く。「ちゃんと番所へ届けておけよ」と井原は逃げて行く背中へ声を掛けた。

Photo_11 火盗改メの繋ぎの場所、屋形船の中へ密偵の伊左次が入って行った。平蔵と酒井が待っている。野良犬集団の雷神党という無頼の浪人たちの中に、御家人が混じっていて、奉行所は手が出せないでいる、という報告であった。「野良犬どもはそのうち始末する、それまで目を離すなよ」と平蔵は指示した。

Photo_5 酒場の前を通った平蔵らの前で居酒屋の親爺が門付けの女を叩き出し、一人の女を殴っている。「相手は女だ、その辺で勘弁してやれ」と仲裁した。倒された方の女は平蔵を見て、「鐵っあん……」と呟いた。平蔵は怪訝な様子で見ると、「鐵っあんだろ、入江町の……。昔、本所で暴れていた鐵っあんだ」と言われて平蔵も思い出していた。酒井が「これ女、こちらのお方は火附け盗賊改方長官の長谷川平蔵様だ」と言うと周りにいた者たちは恐れ入ってしまったが、門付けの女・おろく(沢村貞子)は「立派になりなさったねぇ」と涙ぐんでいる。すると平蔵は「仙台堀のおろく、しばらくだったな」と言い、「なぁに、中身に変わりがあるものか」と親しそうに接した。おろくは一杯やろうと誘うが、「見回りの途中で忙しい、何かあったら清水門外の屋敷へ来てくれ」と言い置き、財布ごとおろくに渡して去る。

 酒井が、「本当にあのような者が馴染みだったのでしょうか」と尋ねると、平蔵は「馴染みどころか、いっときは一緒に暮らした事もある」と言う。「酒癖が悪く、客を選ばず、とうとう牙婆(すあい)女に落ちたと聞いたが、世間は狭いものよ、これだから悪いことは出来ぬなぁ、のう酒井……」と言うと、酒井は不機嫌な顔になってしまった。「そう怒るなよ、人間誰しも古傷はあるものだ、古傷も年をとればそれも懐かしいものよ」と懐古的になっている。
 *: 牙婆(すあい)女とは、売春の仲立ちを商売とする女。
 

Photo_6 翌朝、長屋のおろくの部屋へ門付けの相棒おもん(本間文子)が「もう起きたかい」とやって来て、「泥鰌で一杯なんて、良いね」というおもんと連れだってめしやで昼から泥鰌で一杯やっている。夕べの一件で味をしめたおもんは、昔浅草や下谷にいた頃の馴染みの旦那衆を片っ端から訪ねて小遣いを頂こう、しばらくは遊んで暮らせると言い出す。おろくは「嫌だよ、鐵っあんの所へたかりになんか行けやしない。女の意地があるんだ」と言うと、「あたしだって、鬼平さんみたいなおっかないのは願い下げさぁね」と言っている。

Photo_7 翌日、おもんはおろくを引っ張って、木綿問屋“大丸屋”を訪ねる。主人の仁兵衛は元は万吉(梶哲也)という手代であったが、婿に入り今では仁兵衛と名乗っていた。おもんは番頭に「こちらに万吉さんがおいででしょうか、仙台堀のおろくが来ました、と取り次いでくださいな」と声を掛けた。そこへ当の万吉、今の主人・仁兵衛が現れた。おろくは「まぁ、しばらくだったわねぇ万ちゃん」と気安く声をかけるが、仁兵衛は「あたしゃ、知りませんよ。番頭さん、何だってこんな女を店先に入れちまうんだ。早く追い出しなさい」と追い返される始末であった。

Photo_8 追い返された二人は、がっかりして近くの神社で一休みしていると、石段を駆け上がってくる仁兵衛が「おろく、悪かったねぇ、勘弁しておくれ。さっきは咄嗟だったものだからびっくりしちまったんだ。手代から養子に入ったあたしには、これが精一杯なんだよ」といい懐紙に包んだ金を渡し、「お願いだ、二度と店には顔を出さないでおくれ。あんたも達者でね」と言って踵を返した。包みを開けると十両ある。おもんはにんまりしている。その晩は仁兵衛から頂戴した金で、長屋の連中を集めてドンチャン騒ぎの大盤振る舞いをしたのである。

Photo_9Photo_18 おもんは娘のおつる(森今日子)のところへ土産の菓子や漁師の亭主・寅松の好きな酒を持ってやって来た。おつるはおもんを見るなり、「こざっぱりして、どうしたのさ」と尋ねると、「ちょいとした金蔓を掴んだのさ。亭主には内緒だよ」と言うが、その晩寅松は酒場で仲間達に、ここだけの話だぞと飲んだ勢いでしゃべっている。店には雷神党の一人、砂田の彦兵衛(長谷川弘)がその話に耳をそばだてていた。そのすぐそばに雷神党から目を離さず張り付いている伊左次も聞いていたのである。

Photo_10Photo_17 彦兵衛は、雷神党が屯する小屋へ向かった。寅松の話を仲間にすると井原は一計が浮かんだ。伊左次が小屋に探りを入れていると、古着屋や髪結いまで呼び寄せている。小屋から出て来た井原と彦兵衛は立派な武士の格好に変わっていた。伊左次は二人を尾けたが見破られてしまった。抜刀された伊左次は橋の上から暗い川面に飛び込んだ。やがて二人は“大丸屋”へ現れ、相馬稲葉守家来と名乗り案内を乞う。奥で夕餉を囲んでいた仁兵衛は、はて何だろう、まったく取引のない旗本がやって来たことに頭をひねっていると、家付きの女房が「奥へお通ししなさい」と番頭に命じた。

Pdvd_009Photo_19 座敷に通され、挨拶に出た仁兵衛に井原は「それがしは、仙台堀のおろくの義理の弟である」と語り始め、「おろくは、おぬしの子を産んでいて、その娘が嫁入りすることになった。支度金として百両用立てて欲しい」と強請られてしまった。

 雷神党一味は戸締まりを終えて閉めている岡場所を叩き起こし、女を出せ! と暴れている。泊まり客の男を叩き出し、女を抱き始める。井原は店の女将に「金ならあるぞ」と先ほど大丸屋から強請盗った金をばらまいている。

Photo_12 平蔵、酒井、伊左次の三人は雷神党のねぐらになっている小屋を調べた。もぬけの空であるらしいが槍が一振り立てかけたままになっていた。「その日暮らしの痩せ浪人どもが、このような物を置き去りにして行くとは思えん」と言い、伊左次に「あぶく銭を掴んだ奴の噂を聞かぬか」と尋ねると、伊左次は「雷神党も、ここ四・五日はぴったりとなりを潜めております」と答えた。

Photo_15 平蔵はおろくの長屋に行ってみる。おろくは病んで寝ていた。「なんだ、葛根湯を飲んでいるのか。俺が煎じてやろう」と介抱し、火盗改メの俺の手先になる気はないか、と尋ねる。おろくは平蔵のためになるならと、引き受けた。その晩、おろくは三味線を小脇に長屋を出た。おもんがそれに気づき、「具合が悪いんだから、お止めよ」と止めるが、「お上の御用で出掛けるんだ」と出て行った。あちこちで雷神党の噂を聞いて回るが、一向に分からない。だが屋台の二八そばやの親爺から、鷹橋の岡場所で大暴れした浪人どもがいたらしい、という話を探り当てた。さっそく鷹橋の岡場所へ向かい、一杯飲みながら酒場で小女にそれとなく尋ね、「何か分かったら、仙台堀のおろくと言えば分かるから、教えておくれ」と言い置き店を出た。おろくの後を追って雷神党の彦兵衛も店を出て、おろくに「人捜しなら手伝うぜ。雷神党ならみな顔馴染みだ」と声をかけた。驚いたおろくに当て身を加え、連れ去ってしまった。

 岡場所でおろくが掠われたと知ったおもんは、清水門外の火盗改メ役宅へ走った。が、同心の竹内は「お頭に取り次ぐほどの事ではない」と取り合ってくれない。酒井も「お頭は朝が早い、それまで待て」と、やはり取り次いではもらえなかった。

Pdvd_008_2 雷神党の小屋では、おろくが縛り上げられているが、猿ぐつわは噛まされていない。「こうなりゃ全部しゃべってやる。あたしゃ、火盗改メ長谷川平蔵様のお手先なんだ」と言った途端、井原の目がキラリと光った。おろくの縄を解き、逃がしてやると外へ連れ出して斬り殺され、しかもその首を切り落とされた。

 翌早朝、伊左次が雷神党の小屋へ向かった。ふと気づくと、どぶ池の縁に女物の帯が見えた。たぐり寄せてみると、それは女の死骸であり、首がなかった。小屋から出て来た雷神党の一人は風呂敷に包まれた丸桶を持っている。井原と彦兵衛の二人は大丸屋へ向かった。

Pdvd_010Photo_14 大丸屋の座敷では、呼びつけられた主人の仁兵衛に井原が「姉のおろくは百両では承知出来ぬというので、止むなく首を切り落とした」と風呂敷を解き、丸桶の生首を見せる。襖越しに覗き見ていた仁兵衛の女房も仰天した。「これでおろくの方は安心だが、娘の事もある。おろくの永代供養料と併せて五百両申し請けたい」と有無を言わさず強奪してしまう。仁兵衛は発狂してしまい、店の外へフラフラ出て来たのを見た伊左次は、その異変をすぐさま火盗改メ役宅へ知らせ、おろくは今朝方殺されたらしい、と告げた。平蔵は酒井と山田に、「おろくは死んだぞ。今朝方殺された。なぜ儂に知らせなかった」と告げ、火盗改メの手先などを頼んだばっかりに、おろくを死なせてしまった……、と後悔する平蔵であった。

Pdvd_011Photo_16 雷神党の小屋では、奪った五百両を前に浪人どもが高笑いをしている。一人が火盗改メに気づき、包囲されつつあることを知らせた。抵抗する雷神党をすべて斬殺して終わった。

 平蔵はおろくの墓前で手をあわせている。

Photo_13【あとがき】 この作品は、新旧どちらも良かったです。本当に甲乙付けられません。オリジナルの“おもん”(本間文子)と吉右衛門版の“おもん”(浅利香津代)が、特に素晴らしいです。

【中村吉右衛門版】 山田五十鈴(おろく) 浅利香津代 (おもん) 近藤洋介
 

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鬼平犯科帳 '69 第十三話

埋蔵金千両

Photo_17監督: 古川卓己  原作: 池波正太郎  脚本: 池田一朗

出演: 松本幸四郎 [八代目] (長谷川平蔵) 竜崎勝 (酒井祐助) 市川五百蔵 (竹内孫四郎)

ゲスト: 左時枝 (おけい) 菅井一郎 (土蜘蛛の万五郎) 玉川伊佐男 (須川の利吉) 早川研吉 (萩原市之進) 成合晃 (中村宗仙) 椎名勝己 (村松光三郎)

Photo_18【ものがたり】 小金井の万五郎、別名土蜘蛛の万五郎(菅井一郎)は、急ぎ働きで売った大泥棒、生涯お縄を受けた事がない。その万五郎が盗人の足を洗おうとしていた。盗人宿にしている小屋には子分どもが集まっている。万五郎は「今までに稼ぎ貯めた金が千九百両余り、そっくりこの小屋の中に隠してある」といい、「おめぇ達には二百五十両ずつ、あとは俺が取る。これで、散り散りになろうじゃねぇか」といわれ、子分たちも「親分がそう言いなさるなら、俺たちも散り散りになりやしょう」と決まった。皆には分からぬように万五郎の左手から、何やら小さな石ころのような物が囲炉裏の淵に置かれた。「金は、この灰の下だ。それじゃ掘り出してくれ」といいながら外へ出て行く。須川の利吉(玉川伊佐男)が、「親分、どちらへ」と聞くと、「年寄りは小便が近くていけねぇや」と言って出て行ってしまった。子分どもは「これで明日から遊んで暮らせるぜ」と気楽な事を言いながら灰下を掘り返している……。まだ火種が残る囲炉裏にさっきの小石のような物が残されていた。

Photo_19 万五郎は小走りに小屋から離れ、身を伏せた。その直後、小屋は吹き飛んだのだった。小屋は跡形もなくなっている。万五郎は、片手拝みに「ざまぁ見やがれ! 南無阿弥陀仏」と呟いた。すぐ近くから「連れ小便といきやしょうぜ親方」という声が聞こえ、ギョッとする万五郎。利吉が匕首を抜いて身構えている。「なんで、てめぇ」という満五郎に、「親方が、あいつらを生かしておくはずがねぇ。しかも、二百五十両とはちょっと多すぎやしませんか」と……。一触即発の状態であったが、いきなり万五郎は高笑いし、自分の匕首を仕舞った。「馬鹿馬鹿しい……。利吉、おめえに五百、いや六百両出そう。手を打たねぇか」と持ちかけた。無言で利吉も匕首を収めた。

Photo_20Photo_21 それから五年後、草深い一軒家にその老人はいた。家には“おけい”(左時枝)という女がいる。万五郎は、客が来るからお茶うけでも買ってきてくれと言い、女を外へ出す。表で様子を覗っている利吉に、出てきたおけいは「遠慮せずお上がり下さい、と旦那様が」と声をかけてきた。座敷に招き入れた万五郎は「今では太田万衛門という備前、岡山の浪人だ」と語り出した。「手前も今では信州、上田のご城下で小間物屋を営む加納屋利兵衛と申しまして、江戸へ参りましたのも仕入れでございます」と言葉遣いも堅気の商人風であった。おけいは、近所の百姓の娘であり、はじめは飯炊きに使っていたが、試してみると万人に一人という名器の持ち主だと判り、以来一緒に住んでいる、というのだ。

 万五郎は無類の女好きであり、その中の一人に女の子を産ませていた。連れ子で後妻に行ったが、ずいぶんと辛い思いをしたらしい、と利吉から告げられた。

Photo_22Photo_23 平蔵と酒井が着流しに落とし差し、編み笠を被り歩いていると、おけいと行き会った。そこへ万衛門と利兵衛がやって来て、おけいと立ち話をしている。平蔵は今別れた荷を担いだ旅商人の目の配りが尋常ではない、それに浪人とはいえ武士に対する態度ではない、と酒井に言い「奴はしたたか者かも知れぬぞ」と酒井に尾けるよう指示した。茶店に入って行く男を縁台で茶を飲みながら待つ酒井の前を、変装した利吉が通ったのを酒井は気づかなかった。百戦錬磨の酒井ですら誤魔化されたのだ。やはり平蔵の睨んだ通り、只者ではなかったのだった。宿に帰り平蔵に報告すると「まぁ良い。あいつは遠国者だ、もうこの辺には居まい」と言う。

Photo_24Photo_25 万五郎は、それからまだ見ぬ我が子の夢をしばしば見るようになった。それは、幼い娘が養父にいじめ抜かれている夢なのであり、万五郎は自分の死期が近い事を悟ったのであった。おけいに「儂は太田万衛門ではない、つい五年前まで“土蜘蛛”と異名をとった“小金井の万五郎”という盗人だ。」と語り出した。盗人で稼いだ金が千両、武州小金井に隠してあり、それをおけいに半分授けるという。信州上田のご城下まで行き、人をひとり連れてきて欲しい、とおけいに頼んだ。ただし通行手形なしで、百姓女の姿で間道を行くのだ、という。

Photo_26 病み着いてから半年後、匙を投げた医者が揉み療治師の中村宗仙(成合晃)を差し向けた。するとメキメキと快方に向かったのだ。そうなると隠した金を他人に渡すのが惜しくなり、隠し金のありかをおけいに打ち明けた事が悔やまれた。

Photo_27 上田宿から、利吉とおけいが江戸を目指し、一日目に旅籠「橋善」に泊まった。そこで“おけい”と呼び止める武士に振り返って驚いた。以前奉公していた屋敷の若旦那で、今では放蕩、無頼の末に勘当された“村松光三郎”(椎名勝己)であり、用心棒で喰っているという。二人で出奔しよう、と相談しているところへ利吉があらわれ「そうはいかねぇ」Photo_28とおけいは連れ戻されてしまう。早立ちをする二人を、村松ともう一人“萩原市之進”(早川研吉)という浪人者が物陰から見ており、村松は萩原に「ここ十日のうちに百両払う」と耳打ちされ、萩原は二人の後を尾けた。

 万五郎は快方に向かっているとはいえ、まだ満足なまでには回復していない。おけいに頼み利吉を呼んだのは、自分の娘に五百両を届けさせる為だった。間もなく利吉が到着するというのに、とんでもない事をしてしまったと悔やんでいる。「利吉が黙って言うことを聞く筈がねえ」と万五郎は、ひと思いに利吉を殺してしまおうと思うのだが、どうにも体が言う事を聞かない。匕首を手に、「利吉の野郎、俺とおけいを殺してでも、千両の金を独り占めにしようとするに決まっている」と叫びならが、突きの稽古をしているところを、酒井は見た。

 利吉とおけいを尾けてくる浪人がいる。とっくに気づいている利吉は、おけいを促し「ちょっと休んでいこうか」と煙管を出し一服始めた。浪人が火を貸してくれ、と近寄ると、いきなり利吉に切りつけ、左腕を切り落とされた利吉は崖下にもんどり打って落ちて行った。おけいを伴い、村松と落ち合うと「百両といえば大金だ。金のある場所まで付き合う」と言い出す。

Photo_29 利吉は瀕死の重傷であったが、それでも生きていた。そして万五郎の家に現れた。おけいには村松光三郎という浪人が付いていて、俺をこんな様にしたと告げ、死んで行く身に金はいらねぇ、おけいの行く先を言え! と言う利吉に、万五郎の匕首が一閃した。翌朝、酒井と竹内は万五郎の家に着くと、利吉の死体だけが残され、畳に死の間際に血で書き残した「つちくも まんごろう こがねい」とあった。

Photo_30 その頃、隠し金の場所で瓶を三人は掘り当てていた。金を入れた背負い駕籠をおけいが背負い歩いていると、「約束の百両を払おう」「嫌だ、千両欲しい」と言い出す二人だったが、村松はあっさり斬られてしまった。

Photo_31 万五郎は、小金井へ向かう途中で会った馬子を殺し奪った馬に乗って行く。先回りしていた平蔵、酒井、竹内が峠の茶店で茶を飲んでいるところへ万五郎は馬に乗り現れた。平蔵は竹内に「気取られてはならぬ」と万五郎を尾けさせた。その場所へ到着した万五郎は、すでに掘り出された穴を見て呆然としている。ところへ平蔵と酒井が現れ、「土蜘蛛の万五郎。神妙にお縄を頂戴しろ」というが、やけっぱちの万五郎刃向かうつもりであったが、急に胸を押さえ穴の中へ……、そして絶命した。そこへ、竹内がやって来て「この先で、浪人者が殺されている」と告げた。

 おけいと萩原は、近くの荒れ寺にいた。「この金で、面白可笑しく暮らせる」とおけいを抱きながらほくそ笑む萩原。そこへ無頼の者どもが現れ、「我々も一口、相伴に預かりたい」と出現した。女を差し出す萩原に、おけいは「この金は私の物なんだ、誰にも渡すもんかい」と騒いでいる。それを聞きつけた近在の百姓、そのまま番所へ届け出、平蔵たちの出番となる。こうして無頼の者どもは全て惨殺されたが、奥から存分に嬲られたおけいが出てきたおけいは、こぼれ落ちた小判に纏わり付く。捕らえられた者はおけい一人だったが、牢内でぐっすり眠るおけいを見て、根っからの悪人なのではない、むしろ被害者なのだと平蔵は解き放つのであった。

Photo_34Photo_33【あとがき】 中村吉右衛門版DVDでは、第四部 第六巻 第七十七話 掻掘のおけい 第七十八話 埋蔵金千両。

 ゲスト: 中島唱子 中丸忠雄。したたかさに目覚める百姓女は、中島唱子以外にこの役は演じられないかも知れない。

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鬼平犯科帳 '69 第十四話

お雪の乳房

Photo監督: 吉村公三郎  原作: 池波正太郎  脚本: 新藤兼人

出演: 松本幸四郎 [八代目] (長谷川平蔵) 竜崎勝 (酒井祐助) 古今亭志ん朝 (木村忠吾) 堺左千夫 (伊三次) 池田駿介 (山田市太郎) 市川五百蔵 (竹内孫四郎) 北村陽一郎 (山崎国之進)

ゲスト: 太地喜和子 (お雪) 小瀬格 (つちや善四郎(鴨田の善七)) 飯沼慧 (川獺(鈴鹿)の又兵衛) 宮崎和命 (梅原の伝七) 坂部文昭 (庄之助) 本山可久子 (おかね) 久井和子 (およし) 神保英子 (女中)

Photo_2【ものがたり】 火盗改メ同心・うさ忠こと木村忠吾(古今亭志ん朝)と足袋屋“つちや”の娘・お雪(太地喜和子)は、昼日中から“しるこや・松月庵”の一室で戯れている。お雪の懐へ手を入れながら「こうしていると、お役目などどうでも良くなってしまう……」と鼻声を出していた。足袋屋の婆や・おかね(本山可久子)に促され、身支度を終えてお雪とおかPhoto_3ねは松月庵から出てきた。それを後から見ていた男が二人「良い娘になりましたなぁ」と足袋屋・つちやの主人で善兵衛(小瀬格)、「ありがとう、善さん」と応えている煙管商・“しころや”の主人の又兵衛(飯沼慧)である。又兵衛は「我が子呼ぶのは、晴れがましい気がする」と目を細くしていた。

Photo_5Photo_4 芝・横新町の煙管商・しころや。川獺の又兵衛と異名を取った盗人“鈴鹿の又兵衛”一味の盗人宿である。番頭と小僧が一人、番頭の庄之助(坂部文昭)も盗人の子分の一人である。又兵衛は六十歳、若い頃より諸国を股に掛けた盗賊で、全盛期には七十四名の子分を抱え、仲間内では幅を利かせた大親分であった。中国筋での大仕事を終え、久し振りに江戸に舞い戻ったのであった。その“しころPdvd_009Photo_7や”へ“つちやの善四郎”と、これも堅気の商人姿の“梅原の伝七”(宮崎和命)がやって来る。善四郎は足を洗って堅気になったが、伝七は今でも又兵衛の子分であり、現役の盗人である。二階の座敷で又兵衛は引退すると打ち明けた。「ついては、子分たちの“収(おさ)め金”(盗人の退職金)だけは何とかしなくちゃならねえ。嫌でも最後のおつとめをしなきゃなるめえ。」と持ちかけた。

Photo_8 善四郎は家に帰り、お雪に戸を開けさせて内へ入った。「上方にいるお前のおとっつぁんから手紙が来たよ」とお雪に伝える。お雪は「手紙ばかりで、少しも姿を見せないじゃありませんか」と愚痴を言うと、「近いうちに、こっちへやって来なさるらしい」とお雪を喜ばせた。丁度良い機会だとお雪は善四郎に「一緒になりたい方がいる」と告げると、「一体、どこの誰なんだ」と聞き返す。お雪は「立派な旗本のご子息です」と言われた善四郎は仰天してしまった。

Pdvd_008_2 翌日、善四郎は蕎麦處“まきや”の二階で“しころや”の又兵衛を待っていた。蕎麦屋の小僧を使いに出したのであった。“しころや”から又兵衛がやって来た。「実は、お雪に虫が付いた」と言う。今朝、つちやの店先にお雪と懇ろにしているという侍がやって来て「お雪を嫁に貰いたい」というのであった。相手が侍なので、ちょっと厄介なのだがPdvd_007良縁ではないだろうか、と善四郎は又兵衛に伝えた。だが、お雪に詳しく訊いてみると、三ヶ月ほど前に、しるこや・松月庵の店先で酒を飲んでいた浪人者に絡まれて難渋していた時に、木村忠吾という侍に助けられたのだ、と言った。喧嘩は弱く、屁っ放り腰ではあったが、「火盗改方同心」と名乗ると浪人者たちは逃げ去ったとも言った。これには、善四郎も又兵衛も実に参ってしまった。

 火盗改メの役宅で、忠吾は平蔵に「嫁を貰いたいのですが、ついては、お頭に先方の娘に会ってきて欲しい」と頼む。平蔵は「どこの女だ、惚れっぽい奴だなぁ」と半ばあきれている。久し振りの、昔の知り合いを見かけた、と伊左次が役宅へ報告にやって来、一昨日の夜、煙管商“しころや”から出てきたのは“鴨田の善吉”という“川獺の又兵衛”という盗人の片腕なのだと告げた。又兵衛の女房は善吉の姉で、又兵衛と善吉は義理の兄弟なのである。善吉を尾けて行くと、足袋屋“つちや”に帰った、という。聞き覚えのある屋号に、平蔵は忠吾から娘の店の屋号“つちや”ということを確認した。伊左次に探らせたところ、この“つちや”は七年前から真面目に商いをしている、と報告され、平蔵は「七年もの間、商いをしているのなら堅気になったんだろうなぁ」と呟き、伊左次も「そうかも知れませんねぇ」と相槌を打った。

 忠吾は見回りだと言い、火盗改メ役宅を出かけた。忠吾は“松月庵”へまっしぐら。その頃、お雪は善四郎が帳場から離れないので外に出られなかった。待てど暮らせど来ないお雪に痺れを切らせた忠吾は、“つちや”へ駆け込み、「お雪を嫁に貰う話はどうなっているのだ」と店先で奉公人たちにも憚らず大声で喚き出した。手を焼いた善四郎は、「上方から父親が到着しましてから、このお話のご返事をいたします」と丁重にお引き取り願った。役宅に戻った忠吾は、平蔵から十日間の外出禁止を申し渡される。

Photo_10 翌日から、酒井が動いた。“つちや”の前に虚無僧が立っている。それを尻目に善四郎は出かけて行った。その後を虚無僧が尾ける。蕎麦屋“まきや”へ善四郎は入って行った。小僧が“しころや”へ使いにだされ、間もなく“しころや”から主人の又兵衛が善四郎の待つ蕎麦屋の二階へやって来た。善四郎は「お雪を連れて姿を隠す」と言う。

_2 その夜、“つちや”では、「上方からおとっつぁんが出てくるのを、のんびり待っていられない。大阪へ行こうと思う」と言うと、お雪は「そうしてくれると、うれしい」と喜んでいるが、「お前も一緒に行くんだよ」と言われ、翌朝ふたりは旅装束で駕籠に乗り旅立つ。店の陰で浪人風に扮装した酒井が見張っていた。藤沢宿の宿に着いた二人は二階に通されていた。お雪は向かいの宿からこちらを覗う侍を見ていた。食事の善が運ばれ善四郎はお銚子を手にし、お雪にも勧めていると、「おとっつぁんは大阪のどこに居るの、何をしているの」と尋ねられ、善四郎はしどろもどろになり、堺で下駄屋をしている、と口から出任せを言う。そこで「叔父さんあたし達、尾けられているのを知ってる?」と聞いてみた。そして二人で閉めてある障子を開けると、向かいの二階からこちらを覗っていた侍が、いきなり障子を閉めた。

 夜明けに善四郎が起きて見ると、隣りに寝ているはずのお雪が居なくなっている。お雪はそっと抜けだし、江戸へ戻ってしまったのである。酒井はお雪を追う。お雪は、尾けている酒井に「昨日からあたし達を尾けているようですけど、何かご用ですか」と気丈にも単刀直入に言葉をかけた。酒井は驚いてしまい「用などない」と言うと、その場から足早に去って行く。今度はお雪が酒井の後を追って行く。

Photo_11 忠吾は、言いつけ通り役宅内で書類整理をしている。役宅の庭先に“饅頭売り”と称して“つちや”の婆や“おかね”がやって来た。役宅の下男に見咎められ、追い返されそうになったが、顔を見知っている“おかね”を呼び止め、「饅頭など売り歩くのではない」と言いながら“おかね”からお雪の文を手渡された。それを懐へ隠した。そこへ平蔵が顔を出したついでに、忠吾は「お雪には会って頂けたでしょうか」と尋ねると、平蔵は「お雪という娘は、大した娘だなぁ」と感心している。一人になった忠吾は文を開いてみると「松月庵でおまちします ゆき」とある。すぐさま忠吾は泳ぐようにして役宅を抜け出した。

 松月庵一室へ入ると、そこには旅装束のまま待っているお雪がいた。藤沢宿まで行ったが戻って来たのだという。私たちの後を侍が尾けてきたが、どうも火盗改メのお仲間の酒井様らしい……、と聞いて忠吾は、なぜ酒井がお雪たちの後を尾けていたのか疑念を抱いた。

Photo_12Photo_16 一方、善四郎はふらふらした足取りで“つちや”に戻り着いた。肝心のお雪は未だ帰っていないと言われ、その夜“しころや”を訪ねた。が、しころやには人の気配がしない。今度のおつとめの準備なのか、と“梅原の伝七”の所へも行ってみるが、やはり留守であった。おつとめの前にお雪の事を話しておかねばならぬ、と善四郎は焦った。ふっと、“およし”(久井和子)の事が浮かんだ。およしは、川獺の又兵衛の所で七年も引き込み女として働いている女であった。今は、芝・松元町にある酒樽問屋・“大黒屋金次郎”方へ飯炊きとして住み込んでいる。そのおよしに繋ぎを取り、ようやく居場所が分かった。何と何度も使っている蕎麦屋“まきや”が二軒目の盗人宿だったのである。

 蕎麦屋“まきや”の二階の一室に盗人全員が集まっていた。又兵衛はそこで「隠居して娘と一緒に暮らしたい。その為の最後のおつとめだ」というのを、襖の陰でお雪も聞いてしまった。善四郎も是非仲間に加えてくれ、と頼んだが「俺にもしもの事があったら、誰がお雪の面倒をみるんだ」と聞き入れて貰えなかった。

Photo_13 二艘の舟に分乗した黒装束の盗人どもは、引き込み女およしによって大黒屋の金蔵に入った。そこで待ったいたのは、長谷川平蔵をはじめとする火盗改メ方であった。抵抗もせずに大人しく観念し、恐れ入りましたと又兵衛たちは捕縛された。お雪が現れ、「おとっつぁん!」と声をかけ、平蔵に向かって「鬼平さん。こんな立派な盗賊、見た事ある?」と平蔵を睨んでいる。

Photo_14Photo_15 お雪は大した娘だ、という平蔵に忠吾は、「お雪を諦められない。お雪は盗人ではないのだから」と言い、松月庵で待ち合わせしていると役宅を出た。松月庵にはお雪の姿はなく、女中(神保英子)に文を託してあり、「忠吾さま さようなら さようなら さようなら ゆき」としたためられてあった。その文を握りしめ、松月庵を飛び出す忠吾を店の陰からお雪は見ていた……。

【あとがき】 主演の太地喜和子さん。芸能界でずいぶんと浮き名を流した女優さんでした。

 本名: 太地 喜和子(たいじ きわこ) 旧芸名: 志村妙子 生年月日: 1943年12月2日 没年: 1992年10月13日(48歳)

Kiwako3 東映6期ニューフェイスオーディションに合格し専属契約、志村妙子(しむらたえこ)という芸名で映画に端役で出演。同期には千葉真一・亀石征一郎・真山知子ら。1963年東映を離れ俳優座養成所15期生入団、同期に前田吟、村井国夫、秋野大作(津坂匡章(つさかまさあき))らがいる。俳優座養成所時代からの同期だった秋野太作(松竹映画「フーテンの寅」シリーズ、寅の舎弟役・当時の芸名は津坂匡章)と1974年に結婚したが、短期間で離婚。静岡県伊東市での『唐人お吉』公演期間中、同乗した乗用車が桟橋から転落、二人は自力で逃げたが泳げなかった太地さんだけ水死した。

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鬼平犯科帳 '69 第十七話

熊五郎の顔

Jpg監督: 小林恒夫  原作: 池波正太郎  脚本: 田坂敬

出演: 松本幸四郎 [八代目] (長谷川平蔵) 竜崎勝 (酒井祐助) 堺左千夫 (伊三次) 池田駿介 (山田市太郎) 市川五百蔵 (竹内孫四郎)

土屋嘉男 (信太郎/洲走の熊五郎) 磯村みどり (おのぶ) 如月寛多 (和泉屋治右衛門) 小池明義 (道庵) 矢崎祐之 (由松) 田村錦人 (政蔵) 沢りつお (山猫伝次)

Photo_2【ものがたり】 荷を担ぐ商人風の男と托鉢僧の二人が白壁の土蔵に入っていった。一人は“山猫の伝次”(沢りつお)いま一人は“洲走りの熊五郎”(土屋嘉男)という凶悪な盗人どもであった。表で遊んでいる近所の童たちが散り去るのを待って張り込んでいた火盗改メが土蔵を一斉に包囲した。抵抗する二人のうち、山猫の伝次は召し捕ったが、洲走りの熊五郎を取り逃がしてしまった。

 捕縛された伝次は、籐丸篭で江戸へ護送されるのだが、その途中を狙い熊五郎は伝次を奪い返すと言い残して逃亡したのである。

Photo_3Jpg_3 洲走りの熊五郎は、以前にも捕縛された仲間を護送中の籐丸篭を襲っていたのである。その際、岡っ引の“政吉”という男が犠牲になっている。その女房“おのぶ”が宿外れで倅の“由松”と茶店を営んでいた。この茶店に“和泉屋治右衛門”(如月寛多)が丁稚の金助を伴いやって来た。亭主を亡くしたおのぶの面倒をみたい、ゆくゆくは家に引き取っても良い、という話の返事の催促にやって来たものであった。おのぶは気乗りがしなかったのである。

_2Photo_7 由松を表に遊びにやっていたおのぶは、夕餉の時刻になったので由松を呼びに行くと、川岸の小屋の陰で商人風の男が蹲っていた。見捨ててもおけないので、店に連れて帰り、奥に寝かせて、医師の道庵に手当をしてもらった。男は信太郎といった。三日もすると具合も良くなり、身の上話をするうち、なるとはなしに男女の関係を持つ。

 信太郎は、どうしても届けなければならない品であるから、それが済めば必ず戻ってくると言い置いて出て行った。約束の印にと己の出生を記した守り袋をおのぶに預けた。

Photo_4Photo_6 長谷川平蔵が密偵の伊左次を連れ、おのぶの店にやって来た。亭主の政吉が捕り物中に殺された時、伊左次もその中にいたのだ。しかも熊五郎の顔を見知っているたった一人の男である。平蔵は、熊五郎が近くに潜伏していると知らせ、熊五郎の人相書を置いて行った。その人相書の顔、特長などが信太郎にそっくりであり、おのぶは愕然とした。政吉の弔い合戦であることを戒める平蔵と伊左次であった。

Jpg_2Photo_5 火の番の格好をした熊五郎がいる。おのぶは信太郎と取り違え、火盗改メが探している、と訴えるのであった。熊五郎は山猫の伝次を乗せた籐丸篭を襲撃した。が、平蔵に捕縛されてしまった。

 翌日、おのぶの茶店の前に熊五郎を乗せた籐丸篭が止まる。敵の熊五郎は、やはり信太郎であった……、とおのぶは思い、死んでしまおうと川岸まで行くと、由松が信太郎とやって来る。おのぶは信じられなかったのだが、信太郎は双子であったのだった。

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鬼平犯科帳 '69 第十六話

駿州、宇津谷峠

Photo_4監督: 古川卓己  原作: 池波正太郎  脚本: 安倍徹郎

出演: 松本幸四郎 [八代目] (長谷川平蔵) 竜崎勝 (酒井祐助) 古今亭志ん朝 (木村忠吾)

三上真一郎 (鎌太郎) 田中春男 (空骨の六兵衛) 池田忠夫 (久藏) 鮎川浩 (音五郎) 高山朋子 (お茂) 土屋靖男 (米吉) 菅沼赫 (徳治)

【ものがたり】 寛政三年(1791年)、当時東海道一帯を荒らし回った盗賊“野明けの三次”一味を追って火盗改メは長駆、遠州秋葉山へ出向し、その帰途で袋井宿の旅籠“六文屋”へ駆け込んできた武士がいた。彼は江戸の火盗改メ同心“木村忠吾”(古今亭志ん朝)である。

 「奉行所から達しがあったであろう」と店の者を一喝し、ばたばたと奥へ入っていくと、女中に腰の物、旅装束一切を預け、一目散に厠へ……。忠吾は下痢で、もはや猶予のならぬ状態なのであった。

Photo_5 部屋には、平蔵と酒井も到着しており、「冷や酒にあたったな。夕べ遅くに抜け出してどこへ行った? 宿の台所で女を相手に冷や酒を飲み、味噌とたくあんで一杯やりながら、“江戸へ参ったら良い男を世話する”などと、つまらぬ約束をするのではないぞ」とやり込められている。そして、「風呂に入って、尻の穴を良く洗っておけ」と促される。

Photo_6 酒井と連れ立ち風呂へ。湯船で渋い喉を聞かせている忠吾(この辺りは、さすが落語家である)。江戸から秋葉参りに来ていた男どもに混じっていた一人は、酒井が幼い頃、遊んでいて池で溺れかけた時、助けてくれた命の恩人ともいえる、当時の餓鬼大将“鎌太郎”(三上真一郎)であった。二十年ぶりで懐かしい男に偶然出会い、一緒に飲もうと鎌太郎の部屋へ行ってみると、もぬけの殻であった。女中に聞くと、たった今、急いで出て行ったと言う。また女中は「おかしな人だった。秋葉参りだというのに、たった一人で……」さきほどの男どもはまったく他人であったのだった。部屋に帰った酒井に、平蔵は「おぬしの顔を見た途端、姿を消したのはなぜだ?」という疑念を抱いた。

Photo_7Photo_8 その夜、紅屋(現在の化粧品店)“ふじや”の潜(くぐ)り戸から一人の男がそっと入って行った。迎えに出た女は“お茂”(高山朋子)という店のおかみ、男は盗賊“空骨の六兵衛”(田中春男)であった。すでに子分の“鎌太郎”“久蔵”(池田忠夫)“音五郎”(鮎川浩)“徳治”(菅沼赫)“米吉”(土屋靖男)らが顔を揃えていた。

Photo_9Photo_10 六兵衛は、「昨年奪った四百六十両を、今夜分ける手筈であったが、持って来なかった」と切り出した。驚く子分達であったが、鎌太郎は一人冷めていた。「最近、江戸の火盗改メの詮議が厳しくなり、つい先日“野明けの三次”一味がお縄になったばかりで、どうも火盗改メの密偵(いぬ)が探っているらしいので、用心のためだ。」といい、あと半年は辛抱して分配するのを延ばしたい、とも言い出した。

Photo_11 音五郎は、「冗談じゃねぇ、今までこれだけを楽しみに待っていたんだ。それをまた半年も延ばされちゃ、叶わねぇ」と不満をぶつけるが、鎌太郎が承知したものだから、続いて皆も同意した。それぞれに十両ずつ、これは六兵衛の身銭からだと、恩着せがましく久蔵から渡され、渋々子分達は帰って行ったあと、六兵衛は店の主人・久蔵に、金の隠し場所を記した絵図面を取り出し、半分に切って渡し、「俺にもしもの事があったら、あとは好きにして良い……」という。

Photo 忠吾は今夜も悪い癖を出し、平蔵には内緒で外の“うどんや”出掛けて行った。そこにはさきほどの酒井の知り合いらしい男が他の二人と飲んでいる。徳治が「空骨の親方は、以前にも金の分配を渋って、とうとう約束の半金でとぼけてしまった事がある。いわば札付きのお人だ」と、ひそひそ話している。と、店に入って来た忠吾「腹が空いて堪らぬ」と、きつねうどんを二杯も注文し、酒を飲みはじめた。鎌太郎は忠吾が火盗改メであることを知っているため、二人に目配せをし、自分も帰ろうとするが、「なぜ、黙って宿替えをしたんだ。酒井様が探していたぞ」と言われながら忠吾に引き留められてしまった。

Photo_13 堂の中で、徳治と音五郎が待っている。遅れてやって来た鎌太郎は「さっきの侍は誰だ」と聞かれ、顔色も変えず「江戸の火盗改メだ」と言った途端、「てめぇが、火盗の犬だったのか」と二人は怒気をあらわにし、威嚇する二人を尻目に、ふんっ、と鎌太郎「犬(密偵)の話は大嘘さ。奴のいつもの手だ! 俺の事を犬だと思うのは勝手だが、金を取り戻す邪魔はしないでくれ」と二人に言い、「一年待って出ねぇ金が、あと半年待っても出る訳がねぇ」と言われた二人は、納得してしまう。そこへふじやの“お茂”が現れ、「明日、六兵衛は金谷宿の“お粂”の所へ行くと言っていた、と告げる。

 先回りして六兵衛を待ち伏せしていた三人は、薄(すすき)の原で六兵衛を殺害し、半分の絵図面を奪い、死骸を川に捨てた。

Jpg 出立準備が整った平蔵と酒井。木村だけ昨夜盗み食いしたのが祟り、またしても腹の具合が悪くもたもたしている。篭に乗せて貰った忠吾だったが、途中で堪らず薄を分け入って用を足していると、眼前に瀕死の老人が助けを求めてきた。が、金谷宿の番所で老人は果てた。奉行所の役人によると、「この者は昨年の冬、薬種問屋“神崎屋太兵衛”方を襲い六名を殺傷し、四百六十両余りを奪った八名の盗賊の頭“空骨の六兵衛”に相違ない」と言った。平蔵の感働きは、奴らは金の分け前を回って仲間割れしたに違いない、とすればまだ近くにいる気がする、というものであった。

Photo_14 “ふじや”に戻ってきた久蔵はお茂に「空骨の親方が殺られた! どう考えても“鎌”の野郎の仕業に違いない」と吐き出す。お茂は顔色一つ変えず何も応えない。久蔵は、夫婦の振りをしてはいるが、お茂は六兵衛の物であり、その情夫が殺されたと聞いても、眉一つ動かさぬお茂の薄情さを感じていた。その晩、六兵衛が居なくなったお茂に、「これで、あの金は俺一人のものだ」と呟き、久蔵が言い寄る。お茂も色仕掛けで残りの絵図面を奪い、翌朝には篭で出掛けた。

 旅籠“池田屋”で鎌太郎はお茂を待っていた。やって来たお茂に鎌太郎は「残りの絵図面をどうやって手に入れた」と意地悪く尋ねる。どこまでも鎌太郎に付いて行くというお茂を薄の原まで連れて行き、そこで刺し殺し絵図面を手に入れた。お茂の後を付けていた久蔵の仲間“米吉”は落ち葉を被せられたお茂の死骸を確認した。 

 鎌太郎は、早馬を仕立てて宇津谷峠を目指そうとしていると、偶然酒井がそれを見咎め、「どうしてこんな所にいるのだ、お前は秋葉詣でのはずじゃなかったのか。岡部の宿で一杯やろう」と誘うが、鎌太郎は曖昧な態度ではぐらかし、「もう、昔のままじゃない。俺の事は放っておいてくれ」と言い残し仕立てた馬に乗り去って行く。その左二の腕に入れ墨があるのを平蔵は見た。平蔵は、木村に「お前も馬で追え」と命ずる。だが、腹の具合の悪い忠吾、途中でまた用を足している隙に、宇津谷峠で馬を下りた鎌太郎に逃げられてしまった。

 鎌太郎は、目指す金を隠した小屋の手前、朝比奈へ抜ける間道“蛇の河原”で、徳治と音五郎と落ち合った。

 鎌太郎ら捕縛に向かう一行から酒井を外し、宇津谷峠へ急行する。幼馴染みを捕らえるため、斬殺する事もあるだろうと考えた平蔵は酒井を気遣ったのである。

 目当ての小屋まで辿り着いた鎌太郎らは、中の様子を探るべく徳治が一人入っていったが、隠れていた久蔵と米吉によって殺された。それを見て音五郎は逃げ去ってしまう。

Photo_15 小屋へ入って来た鎌太郎に久蔵は「てめぇも、役立たずな野郎どもと組んだもんだぜ」と蔑む。米吉に腰に組み付かれたところを久蔵の刃が襲い、鎌太郎は絶命する。二人は金を掘り出し、にんまりとしている所へ平蔵らに囲まれ、金を目前にして抵抗する二人は斬殺された。

Jpg_2 番屋から戸板で運び出される鎌太郎の死骸に、懐から出した手拭いをそっと顔へ掛けてやる酒井であった……。

 【あとがき】 中村吉右衛門版、第五部・第六巻・第九十八話として放映。ゲストは、二宮さよ子、沖誠也、誠直也という布陣。DVDは、第九十七話「艶婦の毒」とカップリングされてます。

Photo_17 二宮さよ子さんは、とにかく妖艶な色気を醸し出す女優さんで悪女振りも素敵です。ストーリーは、密偵の“おまさ”(梶芽衣子)とお茂(二宮さよ子)が昔の盗人仲間と、まったく違っていますが、どちらが良いかは、ご覧になった個人の判断にお任せいたします。
 

 

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鬼平犯科帳 '69 第十二話

妖盗葵小僧

Photo監督: 高瀬昌弘  原作: 池波正太郎  脚本: 柴英三郎

出演: 松本幸四郎 [八代目] (長谷川平蔵) 竜崎勝 (酒井祐助) 池田駿介 (山田市太郎) 市川五百蔵 (竹内孫四郎)

ゲスト: 早川保 (芳之助) 市村俊幸 (市兵衛) 桜田千枝子 (おきぬ/しのぶ) 中井啓輔 (幸次郎) 池田生二 (専右衛門) 山田芳夫 (善太郎) 今村原兵 (小沢孫兵衛) 花上晃 (小野千之介)

Photo_11Jpg_4【ものがたり】 ある晩、火盗改メの市中見回りの最中、それは起こった。所は“和漢筆墨處・京屋”であり、店の中には中間(ちゅうげん)が五人。縛り上げられ、猿ぐつわを噛まされた番頭に刀を突きつけている。そこへ奥から頭巾で顔を隠した男が出てきた。

 「待たせたのぉ……ゆるゆる参ろう。」

と、悠長なことを言っている。立派な武士の身なりで、言葉遣いもどこか大身の旗本風であった。が、羽織の紋所が“三つ葉葵”であり、これは将軍家の紋である。

Photo_19Photo_8 商家から提灯を先頭に、頭巾をかぶった武士が続き、その後から中間が続くが、肩には千両箱を担いでいる者もいる。この夜更けに尋常ではない。すぐさま火盗改メの酒井祐助、竹内孫四郎、山田市太郎の三名が河原まで追って行き、舟に乗ろうとするところで酒井が声を掛けた。

Photo_9Photo_37  「控えよ、この紋所が目に入らぬか!」(どこかで聞いたような台詞だが……)と武士が一喝する。見ると紋所は“三つ葉葵”であり、三名の火盗改メの同心は平伏せざるを得ない。高笑いをする武士、「詮議は無用じゃ、無用じゃ」といいつつ、悠々と去って行ってしまった。三人とも確かに葵の御紋は確認した。また千両箱は商家の物であることも……。もしや、押し入られた商家があるかも知れぬ、と急ぎ先程の店の前に戻って行く。

Photo_10Jpg_7 先程の者たちが出て来たと思われる店の戸口から、少し灯りが漏れている。火盗改メだと告げて潜り戸を開けさせると番頭が応対し、何もなかったと事件を否定した。しかし、泥足の跡をを拭ったと思われる形跡、奥からは女のすすり泣く声が漏れてくる。主人・善太郎(山田芳夫)の弟で番頭の幸次郎(中井啓輔)が、あれは兄嫁が病の痛みに耐えきれず泣いているのだ、と嘘をいう。だが、金を盗まれただけではなく、縛り上げた主人の目の前で内儀お千代を犯したのである。

 葵の御紋を身に纏い、押し込みを働くなど前代未聞の由々しき事態であり、徳川幕府を根底から揺るがす大事件であった。

Photo_12 京屋の者は、口をつぐんで事実を話さない。よほどの事情があるに違いない、正面から切り出しては進展しないと判断した平蔵は、京屋に投げ文をする。「正午、谷中妙法寺の五重塔へ来い。 葵」としたためてあった。昨晩の“葵小僧”だと驚いた京屋の主人と番頭の兄弟は指定の場所へ赴き、六百両を強奪された挙げ句、主人の目の前で内儀を犯された事の顛末を話しているところへ、平蔵と酒井が現れた。事情は呑み込めたのだった。

Photo_33 詳しく話を聞いてみると、昨夜四ツを少し回った頃、奉公人が寝静まった後、幸次郎が一人で帳付けをしていると、戸を叩く音に気づいた。そして、相手は“戸田家用人・小沢孫兵衛”(今村原兵)と聞き覚えのある声で名乗り、急用だというので戸を開けると、中間どもが押し入ったというのだ。

Photo_13 翌日、火盗改メの酒井は戸田家用人の小沢孫兵衛を訪ねていた。それを物陰から見ていた男、貸本屋の亀吉(実は葵小僧の変装)であった。そして、決して知られてはならない葵小僧による京屋の事件の顛末が書かれたビラが、町のあちらこちらに貼られるという事態になってしまった。

Photo_14 火盗改メが京屋に到着すると、すでに主人の善太郎と内儀のお千代は自害していた。弟の幸次郎は、自害はしたが“葵小僧”が殺したも同じ事だ、仇を討ってください、と平蔵にすがりついた。

Photo_34 一月の間に、同様の事件が三件発覚した。その手口はどんどんエスカレートし、必ず女を犯すほかに、手向かう者は容赦なく殺害するようになっていた。届け出ない被害者がいるかも知れない、と平蔵は危惧した。押し入った先では、必ず家人の見ている前で女を犯し、それも芝居掛かった台詞や仕草なのであると、届け出た者は証言した。

Photo_23Photo_18 上野池之端仲町の小間物問屋“日野屋”でも、内儀おきぬ(桜田千枝子)の叔父で、深川で材木問屋を営む専右衛門(池田生二)の声色(こわいろ・声帯模写)に騙され、戸口を開けてしまった。そこで、葵小僧は「このような良い女を女房にして独り占めするとは憎い奴」と、主人の文吉の目の前で女房を犯そうとする。縛り上げられた身で食らいつくが、芝居がかった台詞を吐きながら一振りした刃に文吉は悶絶してしまった。

Photo_16 葵小僧は半年前に店を開いた日野屋の筋向かいにある骨董“鶴屋”の裏戸を開けて中へ入った。内にはすでに隠居した盗人“市兵衛”(市村俊幸)が、派手に女を犯し過ぎると窘めた。すると葵小僧の芳之助(早川保)は昔の事を回顧する。

Photo_20 もとは、名古屋・小野川千之助一座の大部屋役者だった。二十歳の頃のことであり、当時芝居茶屋の女“しのぶ”(桜田千枝子・二役)と夫婦約束をし、相当に入れ込んでいたのだが、ある時座頭の千之助の世話になると茶屋も辞め、千之助と戯れている所へ現れた芳之助は、しのぶからさんざん馬鹿にされ、金も地位もない大部屋の役者と罵られて逆上、二人を殺害して出奔したのであった。

Photo_24 押し入った先で女を犯すのは、その時の仕返しのつもりであったが、日野屋のおきぬは、寝返った女“しのぶ”に生き写しだったのである。鶴屋は初めから“おきぬ”目当てで盗人宿にしたものであった。憎いのであるが、最初の女“しのぶ”、瓜二つの“おきぬ”が忘れられない芳之助であった。

Photo_25Photo_26 何食わぬ顔で、文吉の葬儀に顔を出した芳之助は、やつれたおきぬの体を嘗め回すように見ていた。もう一度、江戸を脱出する前にもう一度だけ……と狂ったようになる。

 盗人仲間を鶴屋に集め、今夜、四ツ。もう一度日野屋に押し入ると指図する。だが、市兵衛は七日前に押し入ったばかりの日野屋は絶対に駄目だと猛反対する。芳之助は、葬式の香典を狙うというが、市兵衛には本当の目的は“おきぬ”への未練、恋しさであると確信していた。だが事は決行された。

Photo_27 日野屋の奉公人は皆、縛り上げられている。長谷川平蔵と酒井祐助は日野屋の陰にいると、店から寝間着姿で呆けた“おきぬ”がふらふらと歩いてきた。付けて行き川に出たところで、平蔵は「死ぬ気だ!」と察知し、おきぬに声をかけた。きっと葵小僧は始末する、身に起きたことは時が癒してくれる、一年間だけ死ぬことは思いとどまれ、と諭すのであった。

Photo_28 声色を使っているという手がかりから、真似をされた材木商の専右衛門、戸田家用人の孫兵衛の二人を呼び、詳しく尋ねるが犯人は浮かんでこない。ところが京屋の番頭、幸次郎は声色を使う人物に並々ならぬ注意を払っていた。ある晩、茶屋へ出かけると、今通った部屋から役者の声色を使って芸妓を喜ばせている声を聞いた。そしてその声の主の顔を見て驚いた。医者の風体をしているが、目はあの時の“目”だったのである。医者に変装している芳之助も幸次郎に気がつき、その場で匕首を抜き幸次郎を刺し殺した。絶命する間際に“火盗改メ”に知らせてくれ……といい息絶えた。

Photo_29 こうして、医者“順庵”の人相書が作成され、専右衛門は碁会所でしばしば見かけた男、また孫兵衛は、髷を町人風にすると貸本屋の亀吉である、と証言した。

 盗賊“桐の屋芳之助”怪盗葵小僧の本性が知れた。今までの被害者の証言から、微かな白粉の匂い、役者のような目張りから、芳之助は化粧のために白粉を店から買うであろう、江戸には扱う店の数は少ないのである。こうして火盗改メは見張っている所へ芳之助はやってきた。それを同心の竹内孫四郎が追う。すると、あろう事か大胆不敵にも日野屋の筋向かいにある骨董“鶴屋”へ入って行くのを見定めた竹内は平蔵に報告するのである。

Photo_30 芳之助は、両替商“花澤屋太兵衛”方に押し入った後、日野屋のおきぬを上方へ連れて行く、と言うのだった。そこへ火盗改メが捕縛のためにやって来たが、一味は二階の窓から屋根伝いに屋外へ逃亡、市兵衛率いる仲間と共に火盗改メを引きつけておく隙に、芳之助は日野屋へ。

Photo_35  戸口に立つ芳之助は、平蔵の声色を使い戸口を開けさせ、侵入した。怯えるおきぬ……、そこへ平蔵が戸口から入ってき、芳之助を捕らえた。捕らわれた芳之助は、不敵にも「今までの女どものことを洗いざらい全部喋る。そうなれば、生きてはいられぬ者たちも多数いるのだ。」と笑い出す。しかし、平蔵は「火盗改メを甘く見るなよ。面倒な手続きもなしに、殺生与奪が与えられているのだ。」と告げた途Photo_32端、芳之助の顔色は無くなった。行き場のなくなった芳之助は脇差しを抜いて平蔵に躍りかかるが、平蔵の一太刀はそれまでの女たち、その家族の怨みを一身に受けたかの如く一閃したのである。これで被害者たちの秘密も守られるのであった。

【中村吉右衛門版】 関西のお笑い芸人“島木譲二”(アルミ製の灰皿二枚を自分の頭に打ち付ける芸? で有名であったタレント)が、化粧を施し頭巾を被り、付け鼻までして色男ぶっている“妖盗葵小僧”を演じた。しかし、もの凄く不気味ではあった……。

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鬼平犯科帳 '69 第十一話

老 盗 の 夢

Photo_3監督: 渡邊祐介 原作: 池波正太郎 脚本: 井手雅人

出演: 松本幸四郎 [八代目] (長谷川平蔵) 竜崎勝 (酒井祐助) 堺左千夫 (伊三次) 池田駿介 (山田市太郎) 市川五百蔵 (竹内孫四郎) 北村陽一郎 (山崎国之進) 遠藤征慈 (松村忠之進)

ゲスト: 山形勲 (簑火の喜之助) 根岸明美 (おとよ) 沢村いき雄 (前砂の捨蔵) 大前鈞 (火前坊の権七) 杉義一 (弥六) 北浦昭義 (岩坂の茂太郎) 中庸介 (印代の庄助) 浅野進治郎 (住職) 

Photo_2 今回は、私の大好きな“山形勲”さんが登場します。東映時代には悪役専門(?)の俳優さんでしたが、どの作品でも存在感があり、張りのある声で魅了されました。また、根岸明美さんも悪女役が多かったですが、東宝映画・三船敏郎主演「赤ひげ」では、小石川養生所で死んでゆく蒔絵師・六助の娘おくに役が素晴らしい。(この作品は、以前にこのブログで紹介済みです)

【ものがたり】 京都、小料理“杉野や”の一室。隠居した老人(山形勲)と、馴染みの茶屋女(根岸明美)が戯れている。近く、東の方へ半年ばかり商いで留守にするといい、その間の当座の小遣いにと二十五両の金を渡した。老人は、留守中浮気をしたら承知しないと女に言っている。女の名は“おとよ”といった。

 翌日、老人は十五年前に死んだ女房“お千代”の墓参りに訪れ、住職に供養料を差し出すついでに、これから商いで旅に出るが途中で死ぬようなことがあれば、女房の隣りに葬って欲しいと、五十両の金を預ける。こうして老人は江戸へ……。

Photo_4 魚や“魚松”の風体で荷を担いでいる伊左次(堺左千夫)に蕎麦屋の小女が声をかけた。店でお客さんが呼んでいるのだという。案内された座敷で待っていたのは例の老人であり、その顔を見るなり驚いた伊左次は、つい「親方……」と口に出してしまう。この老人、本格派の大盗人の頭目“簑火(みのび)の喜之助”(山形勲)である。「久しぶりだったなぁ。ところで夜兎はどうしてる? どうしても会いたいのだが……」と聞かれた伊左次は、「夜兎の隅右衛門親分なら、去年かPhoto_5ら芸州へ遠国づとめに出ている」と伝える。そこへ、土地の嫌われ者で十手持ちの“平七”が断りもなしにずけずけと声を掛けた。喜之助に迷惑がかかってはならぬと伊左次は平七を表へ連れ出すと、「おめぇ、火盗改メの酒井様を知っているのか」と言い、「酒井様がお呼びだ」と告げた。店に戻ると老人は、たった今裏から帰ったと小女が言う。伊左次は飛び出していくが、喜之助の姿はすでにどこにもなかった。

Photo_6 夜になって、伊左次は火盗改メの役宅へ出向いた。話題は一体、上方から老盗人が何の為に江戸まで出てきたのか? ということであったが、伊左次にも見当がつかなかった。同心・竹内が「調べ書き」を持って現れ、過去の“簑火の喜之助”の罪状を語り出すところによると、数万両にのぼる被害があった。喜之助に心酔する伊左次に平蔵は、「己の仕事を忘れるなよ」ときつく戒めた。

Photo_7Photo_9 二八そばやの二階に人相の悪い連中が四人集まっている。そこへ前砂の捨蔵(沢村いき雄)に伴われた簑火の喜之助が現れ、それぞれに名乗りあった。この四名は黒雲の竜蔵から借り受けた腕っこきの盗人どもであるというが、そのやり口が喜之助は気に入らぬと言い出した。そこで、喜之助はいくつかの戒めを語り、それについては四名とも同意した。目星を付けた店は、二八
そばやの目と鼻の先にある大名屋敷にも出入りし、ボロ儲けしている“蝋燭問屋・三徳Photo_17屋”であった。そして、喜之助は十年も前から目を付けていたのだ……、と呟いた。その時、部屋を間違えたのか堅気の商人風の男が襖を開け、驚いてそのまま逃げ去った。しばらくすると、四名いたうちの一人が部屋へ戻って来る。すると、外で“人殺しだ!”と叫ぶ喧噪が伝わってきた。喜之助は、「もうこの仕事は終わりだ」といい捨て部屋を出て行ってしまった。

Photo_12 その夜、雑貨屋“花捨”の座敷では親爺の捨蔵と喜之助が話し込んでいる。「あれが最近の奴らのやり口で、外道の見本だ」と捨蔵が吐き捨てた。捨蔵は自分が手伝いましょう、と言い出したが、二人して笑い出してしまった。年寄りだけで押し込む事は不可能であり、詫びを入れさせてもう一度出直しだ、と思い直した。

 印代(いしろ)の庄助 (中庸介) を囲んで先の四名が集まり、詫びを入れるどころか、簑火の喜之助の狙う三徳屋への押し込みを横取りする相談をしている。

Photo_13 灯りの点いた屋形船に伊左次が入って行った。“黒雲の竜蔵”の手下、“印代の庄助”が五日に一度ほど、谷中の首振り坂にある長延寺という寺の離れに顔を出している、という情報を持って来た。平蔵は喜之助の動向を問うと、毎日浅草の観音様や柴又の帝釈様、不忍池の弁天様、深川のお不動様、虎ノ門の金比羅様、向島の七福神巡りなど寺参りをしているという。それを聞き、顔つきの変わった平蔵は、「喜之助から目を離すな。長延寺にも張り込ませろ」と酒井に下知した。翌日から喜之助には火盗改メの同心・山田と松村がぴったり張り付いた。が、喜之助が休憩している茶屋の女中が、物陰に潜む山田にお盆に乗せた酒を持って来て、「ご苦労様、奥のご隠居様から……」尾行はすでにバレていたのであるが、喜之助も粋な事をするのであった。

Photo_14_2_2 一月以上も喜之助をつけ回したが、何の気配もなかった。信心深い、ただの年寄りだと山田は報告するのであるが、平蔵は決して気を緩めるな、大丈夫と思った時が落とし穴だ、と皆を戒め、「奴は必ずやる!」と言い放つ。

 竜蔵の手下、座頭の“照の市”は首尾良く三徳屋の主人の揉み療治に入り込んでいた。療治が終わると、「一本つけてあるから暖まってお帰り。何だったら、今夜も泊まっていってゆく良い」と持てなされるほど気に入られていた。そして、「今月の十四日の晩は空けといておくれ。」と言われ、この夜も泊まるのである。幾度も泊まって、店の様子を覚え、金蔵の鍵の蝋型なども獲れるであろうし、引き込みまで出来るのであった。

 見張っていたはずの盗人が、火盗改メの裏をかき二人三人と姿を消した。伊左次は、黒雲の竜蔵の手下、岩坂の茂太郎までが出てきた事にただならぬ気配を感じていた。それを聞き及んだ平蔵は、「簑火の喜之助の筋書きを、黒雲の竜蔵がすっかり書き換えたかも知れぬ」と漏らした。また「ここ二、三日内が危ない!……もしかすると今夜かも知れぬ」と悲痛な面持ちである。伊左次は必死に顔の利く場所や連中すべて嗅ぎ回った。しかし、有力な手掛かりは何一つとして入ってこない。ヤキモキして浮き足立つ火盗改メの中にあって、一人平蔵は目をつぶって腕組みをしているしかなかった。

Photo_15 伊左次はやっと集合場所を発見した。印代の庄助、岩坂の茂太郎、火前坊の権七、それに弥六の前に喜之助が現れ、細々とした手筈を言い渡した。すると、茂太郎が「そんな言いつけは守れねぇ、と言ったらどうする」と居直った。図られたと知った喜之助であったが、四人掛かりで縛り上げられてしまった。(普通なら、ここで有無を言わさず殺されるところだが……)三人が出て行き、残った弥六が喜之助に襲いかかった時、間一髪間に合った伊左次に助けられた。

 廃屋になっている小屋で、押し込みの用意をしている三人。土蔵破りの道具も揃えてあり、「流石、簑火だ。そつが無い」と舌を巻いている。さぁ行くぞ、という時に喜之助が現れ、三人の盗人を成敗した。が、自身も斬り殺されてしまった。

Photo_16 翌早朝、火盗改メが検分している中で、同心の山田は「凄い、三人もやっつけるなんて、見事だ」と感心している。が、平蔵は「たかが、盗人だ」と吐き捨てた。懐中に書き付けがあり「私を、京都一乗寺裏の宝泉寺へ葬ってくだされたく候。喜之助、享年六十七歳」とある。その脇で、伊左次が声を上げて男泣きに泣いていた。

 その頃、京では“おとよ”が別の男に、喜之助に甘えたように媚びを売っていた……。

 【あとがき】 中村吉右衛門版では、 丹波哲郎さん 青山知可子さんが演じています。

 丹波哲郎さんは、鬼平犯科帳・二代目の長谷川平蔵です。

 
 

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鬼平犯科帳 '69 第十話

女掏摸(めんびき)お富

Photo_2監督: 吉村公三郎 原作: 池波正太郎 脚本: 新藤兼人

出演: 松本幸四郎 (長谷川平蔵) 竜崎勝 (酒井祐助) 山吹まゆみ (お葉) 市川五百蔵 (竹内孫四郎) 池田駿介 (山田市太郎)

ゲスト: 宇都宮雅代 (お富) 大出俊 (卯吉) 川辺久造 (狐火の虎七) 細川俊之 (岸根の七五三造) 田代信子 (お長) 松下砂稚子 (おこう) 若宮大祐 (市兵衛) 加藤武 (霞の定五郎)

Photo_3Photo_8【ものがたり】 ある晩、掏摸の元締め“霞の定五郎”(加藤武)は表の家業・荒物處の仕事帰り、橋の上で女の子の捨て子を拾って家へ帰った。女房のお長(田代信子)も腕の良いの女掏摸であった。子供のいなかった定五郎夫婦は、こうして女の子に“お富”と名付け、溺愛していった。

Photo_4Photo_5 ある夏の夜、お富(幼女時代)の寝顔を見ていた定五郎は、誰が教えた訳でもないが寝ながら左手の指二本をかすかに動かしているのを見定めた。隣りで寝ている女房のお長を起こし、「こりゃぁ、仕込めば大した女掏摸(めんびき)になる」と親であることを忘れ、お富に掏摸の“いろは”を教え始める。お富はメキメキ上達し、しかも万人に一人と思われる指先の強さを持っていた。

Photo_6 十八になり外へ出ることを許されたお富(宇都宮雅代)は、祭りで賑わう境内で狐火の虎七(川辺久造)と獲物を物色している。格好を付けた三人連れのヤクザの兄貴分に目をつけたお富は、なんなく掏摸とってしまうが、掏られたヤクザはまったく気がつかない。虎七から、「あんな、唐変木なら小僧にだって掏れる」といわれたお富は、ちょうど通りかかった二人連れの侍の懐を虎七に狙わせたが、こっちは見破られ無様に逃げ出す。

Photo_7 お富の家では、お長とお富を相手に定五郎が昔し話に花を咲かせながら晩酌をしていた。突然、定五郎の意識が混濁し、あっけなく世を去ってしまう。元締めの定五郎が死ぬと、狐火の虎七が「跡目は俺が継ぐ」と言い出す。納得がいかないお富は、「子供のあたしが継ぐのが筋だ」というが、仲間の前で虎七は「お前さんは、定五郎に拾われた捨て子だったんだ」とお富みに引導を渡して自分が掏摸の元締め・霞の定五郎の二代目に納まってしまった。

Photo_9 ある夜、お富みに恋慕していた虎七は、お富の家に侵入し、寝ているお富に言い寄る。勝ち気ではあったが、手籠めにされそうになったお富は着の身着のままで駆けだし、昔は“夕霧の市兵衛”と言ったが、今では堅気になり古着屋をしている先代・定五郎の友人の家まで逃げ着いた。ここで暫く匿われているうちに、向かいの傘屋“みのや”の若い番頭“卯吉”(大出俊)と所帯を持ち、小さいながらも傘屋の店を出すことになった。

Photo_10 だが、楽しい日々は続かなかった。ある日のこと、店先に霞の定五郎の手下で、“岸根の七五三造”(細川俊之)が現れた。この場面、歌舞伎の一場面『玄冶店』(げんやだな)通称「お富与三郎」または「切られ与三郎」の名場面に相似した作りになっている。つまり、「おかみさん……、ご新造さん……、お富さん。久し振りだなぁ」「そう言うお前は……」というくだりである。

Photo_11 七五三造に呼び出されたお富は、昔の稼業の口止め料に三月の内に百両を、とせびられる。「お前さんの腕なら訳はねぇ」と言われたお富だが、足を洗って堅気の傘屋の女房になっているものを、何で今更……と思う。だが昨年、侍の懐を狙ったがしくじって右腕を切り落とされ、掏摸としては使い物にならなくなった七五三造は、偶然見つけたお富Photo_12から強請(ゆす)り取る安易な方法を考えついたのだった。卯吉との生活を壊したくなかったお富は仕方なく同意し、昔の勘を取り戻すべく“汚いな掏摸”から始めるのであった。汚い掏摸とは、先代の定五郎がいつも言っていた“貧乏人から掏ってはならぬ”“堅気の者から掏ってはならぬ”という戒めであった。

Photo_13 金持ちから随意に掏摸取る技が蘇ったお富は、毎日のように稼ぎに出かけるが、怪訝に思った卯吉には、「子供を授かるための願掛け」だと言う。賑わう境内や露天が居並ぶ参道で……、見事な技で掏摸取る。或る日、平蔵と酒井は“根津権現”の門前の茶店で休みがてら、右頬に黒子(ほくろ)のある美人女掏摸に目を止めた。しかも平蔵らの目の前を何度も往復し、その度に掏摸取る、それは見事なまでの技であった。しかし、“掏摸”を取り締まるのは“火盗改メ”の仕事ではなかったのだ。

Photo_17 「あたしの腕は鈍っていない」と、お富は思った。しかし堅気の女房としては尋常な神経ではない。こうして、お富は百両の金を拵え、七五三造に渡し「これっきりだよ」と念を押した。その金を持って帰る七五三造を火盗改メの酒井が呼び止めた。平蔵と酒井が相手では逃げおおせず、あっさり捕まってしまった。七五三造は佃島の寄せ場送りとなり、左腕一本でも暮らしが立つよう修練を積みそれを身につけ、何年かして娑婆へ戻ったなら堅気になれと諭される。

Photo_16 七五三造から、霞の定五郎の盗人宿を聞き出した平蔵は、定五郎捕縛の下知をし、「女掏摸のお富の方は俺に任せておけ……」と言う。せっかく掴んだ女の幸せだ、そっとしといてやろうという平蔵であった。お富は、七五三造が捕らえられたことも、二代目霞の定五郎以下十四名がお縄になったことも知らなかった。すべてが済んだお富だったはずだが、自分の指先を見つめ何か満たされないものを感じる。お富の掏摸としての血が騒いでいたのである。卯吉に、「今日は願掛けに行かないのか」と問われ、お富は家を出た。茶店の前で平蔵が待っているとお富はやって来た。そして、あろう事か平蔵の懐を狙ってしまったが、捕まれた腕を振りほどこうと藻掻く指にお富の簪を突き刺した。平蔵は、「指の痛みを忘れるな」と言っただけで放免した。

Photo_15 卯吉が飛び上がるようにして古着屋の市兵衛の店へ駆け込んで、「子供が出来た」とうれし泣きしている。そして、満願の日にお富が右手一差し指を詰めたとも言った。言うまでもなく、子供を授かるために詰めた指ではなかったが、卯吉はそれを知らない……。「お富は凄い女だ」といい手放しで喜んでいた。

Photo_18【あとがき】中村吉右衛門版では、坂口良子 (お富) が演じ、付け黒子は顎の下。指は詰めたのではなく、平蔵に指の腱を切られる。と、多少設定が変わっています。

 この他、中西良太 (卯吉) 片桐竜次 (岸根の七五三造) 睦五朗 (霞の定五郎) 根岸一正 (狐火の虎七) 他

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鬼平犯科帳 '69 第九話までを終えて

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 鬼平犯科帳 '69 松本幸四郎版の紹介を始めて、第九話「唖の十蔵」まで来ました。

 文章を書くというのは実に難しいものです。同じ様な言葉が続かないように気をつけているのですが、ボキャブラリが貧しいものですから時間がかかって頭を悩ましている割には、なかなか巧くはいきません。

 映画やドラマの紹介記事とは、簡潔に読んで興味が湧くように書ければ良いのでしょうが、ダラダラと長文になってしまっているのではないかと多少心配になっています。まぁ、予告文のように、あまりに簡単すぎてもと思うんですが……。

 もっとも、まだこの記事を誰も読んでいないのかも知れません。今のところ、反応がありませんし、まったくコメントもありませんから。でも、私なりに頑張ってやって参ります。

 鬼平犯科帳は、大勢の方々の支持を受け、また立派なホームページなどもあると思いますが、テレビドラマ・松本幸四郎版はまだ紹介記事が無いのか、私は拝見したことがありません。そこで最近 J:COM で放映されているオリジナルの鬼平犯科帳の紹介が出来れば、と始めました。

 鬼平犯科帳ファンの方々に目を通して頂き、出来ればコメントなどもお寄せ頂ければ、幸せに存じます。

 どうぞ宜しくお引き立て頂きますよう、お願い致します。

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鬼平犯科帳 '69 第九話

唖の十蔵

Photo_9監督: 小野田嘉幹 原作: 池波正太郎 脚本: 下飯坂菊馬

出演: 長谷川平蔵 (松本幸四郎) 竜崎勝 (酒井祐助) 堺左千夫 (伊左治) 市川五百蔵 (竹内孫四郎) 池田駿介 (山田市太郎) 遠藤征慈 (松村忠之進)

ゲスト: 田中邦衛 (小野十蔵) 赤沢亜沙子 (おふじ) 高津住男 (夜烏の仙吉) 小笠原良智 (助次郎) 浜田寅彦 (掛川の太平) 古川義範 (猿の釘六) 新田勝江 (おいそ) 清水良英 (おこん) 

Photo_11【ものがたり】 麻布一の橋の紙問屋“大和屋勘兵衛”方に賊が押し入り、主人夫婦と奉公人十一名を皆殺しにし、二千四百余両を奪って逃亡した。翌朝、火盗改メが出役し、現場に立った平蔵は、「皆、首を絞められて殺されている。これは“掛川の太平”の仕業に相違ない」と断定した。台所で水を飲んでいた同心・小野十蔵(田中邦衛)は、不意に足を捕まれて仰天した。皆殺しと思われた奉公人のうち、おこん(清水良英)という女中が一名、虫の息で生きていたのだ。女は十蔵に「助さん……」とだけ言い残して息絶えた。後の調べにより、おこんは助さんらしい男と、木挽町あたりの出逢い茶屋で会っていたことを突き止めた。

Photo_12 密偵・伊左治に「助さん」と呼ばれる盗人を知らぬか、と問うた平蔵に、浅草、新鳥越四丁目の長屋に、小間物屋“越後屋”があり、女房のおふじ(赤沢亜沙子)が店番をし、亭主の助次郎が荷を担いで売り歩いている男がいる、と告げた。

 早速、様子を探るべく十蔵を差し向けたが、その頃、助次郎は旅支度をしていた。女房のおふじと別れて他所へ行くのだと言う助次郎をおふじが恨めしそうにそれを見ていた。助次郎は仙吉という兄貴分が訪ねて来るまでの間、酒を飲み始めたが、そのうち寝入ってしまった。行く末を悲観したおふじは、発作的に腰紐で助次郎の首を絞めてしまった。

Photo_13 十蔵は裏口から家に入ると、泣いているおふじの傍らには助次郎が首を絞められて息絶えていた。間もなく、仙吉が現れたが、家の異変に気づいて、屋根裏へ忍び込み中の様子をを窺っている。おふじは助次郎の正体を知らない。十蔵は助次郎の正体は盗人であることを話す。おふじは助次郎を訪ねてくる男は神田の加賀っ原で茶漬け屋をしている“仙吉”という男で、ここへも二、三度来たことがある、と十蔵に告げる。

Photo_14 おふじが急に嘔吐した。身籠もっていたのである。不憫に思った十蔵は、おふじの身柄を一存で匿い、心配せず無事に子供を産ませてやろう、と決心した。助次郎の死体をを床下に埋め、おふじによる助次郎殺しを黙殺するつもりであったが、屋根裏では仙吉が全てを見ていたのである。その男は“夜烏の仙吉”(高津住男)という残忍な盗人であった。

 役宅に戻った十蔵は、早朝に助次郎とおふじは店をたたんで何処かへ移り、もぬけの殻であったと平蔵に嘘の報告する。夕べから一睡もしていない十蔵は早く帰って休めと言われたが、十蔵の足取りは重かった。帰宅しても妻との間柄は冷え切っており、事ある毎に十蔵に恨みがましく愚痴を言う妻や懐かぬ娘のことが心痛の種であった。……十蔵はふと、匿っているおふじの事が気になり、本所押上村へ出かける。この百姓家は十蔵の縁続きの家である。

 おふじを訪ねた十蔵は、自分の身の上話を始め、おふじは同情して涙する。そうしているうちに十蔵とおふじは男女の仲になるのであった。それから、土産を持参したりして足繁げくおふじの所へ通うようになった。そこで、おふじは昨日、柳島の妙見様へお札を頂きに行き、お参りを済ませ門前の蕎麦屋で昼食を摂っていると、仙吉と他の男が通りかかり、「明後日、この場所でこの時間に……」と言っているのを聞いたと、十蔵に告げる。

Photo_15 平蔵に報告するのだが、まさかおふじの口から聞いたとも言えず、存知おりの女から聞き及んだと口を濁してしまった。が、平蔵に何もかも見透かされているのではないか、と内心びくびくしていたのだ。平蔵は「まぁ、良い。この件は、お前に任す。腕の立つ者、四、五名を連れて見事仙吉と連れの男を捕らえろ」と下知するのであった。

Photo_16 その日、おふじを伴って門前の蕎麦屋で張り込んでいると、やがて仙吉は現れた。前後して連れの男も姿を見せた。伊左治が十蔵に耳打ちする。連れの男は“猿(ましら)の釘六”という土蔵破りだと言う。追跡の末、猿の釘六は捕らえたが、夜烏の仙吉を捕り逃してしまった。役宅に戻り、取り逃がした許しを乞う十蔵に、「お前の手下(てか)の女を、いつまでも押上村に置いておかず、近所に住まわせろ。近くここへ連れてくるが良かろう」と平蔵に言われ、隠していたおふじの事を話そうとする十蔵に「それは言わぬが良い、身も蓋もなくなる」と押し黙らせた。平蔵はやはり全てを見抜いていたのだった。

Photo_17 その夜、押上村のおふじを訪ねた十蔵は、おふじが掠(さら)われたことを知る。不敵にも仙吉が物陰から現れ、「おふじは今頃、掛川の親分のところでたっぷりと何されてますぜ……ふっふ」と意味ありげにほくそ笑むのだった。「助次郎の死体は、まだ床下で成仏出来ないでいるんでしょうねぇ。おふじを匿っていた事も火盗改メに知れたらどうなります?」と脅すのであった。そして、「釘六を逃がしてくれ。明日の晩七ツ、指定する場所まで釘六を連れて来い」と言われるのである。

Photo_18 役宅に戻った十蔵は、真っ直ぐ牢へ向かい牢番が止めるのも聞かず、必死の形相で釘六の牢へ押し入り、掛川の太平一味の盗人宿は“王子稲荷の裏参道にある「筑摩屋」という料理屋”である事を吐かせたのである。牢番の急報で到着した平蔵と酒井も盗人宿の所在を聞いた。

Photo_19 平蔵は止めたが、十蔵は一人盗人宿へおふじを救出に駆け出した。もはや死ぬ気である事は明白であり、平蔵以下火盗改メも筑摩屋へ急行する。筑摩屋に一人乗り込んだ十蔵であったが、仙吉はおふじを盾にしている。そこへ火盗改メも到着し、一味の者はすべて斬殺されたのである。おふじ一人に血眼になっていた十蔵は、平蔵に一喝される。闘争中の筑摩屋から一人彷徨い出た十蔵はそれまでの不始末を恥じ、役宅の牢前で切腹して果てるのであった。

 
Photo_20Photo_21【中村吉右衛門版】 柄本明(十蔵) 竹井みどり (おふじ)

 この作品は、新旧ともに良い出来であったと思います。飄々としたところは柄本明が地で行っています。おふじは、個人的にはそこはかとなく憂いを帯びた竹井みどりの方が役柄にピッタリではないかと思われます。

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鬼平犯科帳 '69 第七話

暗剣、白梅香

Photo_11監督: 高瀬昌弘  原作: 池波正太郎  脚本: 小川英

出演: 松本幸四郎 [八代目] (長谷川平蔵) 竜崎勝 (酒井祐助) 山吹まゆみ (お葉) 市川五百蔵 (竹内孫四郎) 池田駿介 (山田市太郎) 小高まさる (豆岩) 加東大介 (岸井左馬之助)

ゲスト: 江原真二郎 (金子半四郎) 真山知子 (おえん) 植村謙二郎 (与平次) 富田仲次郎 (白縫善八) 小栗一也 (うどん屋の主人・利右衛門)

Photo_12【あらすじ】 父の敵を求めて流浪の果てに、人斬り商売にまで成り下がってしまった金子半四郎。その血の臭いを隠すため巷で評判の“白梅香”(現在の香水のようなもの)を用いている剣客。辻斬りが横行し始めたある夜、平蔵もまた辻斬りに遭った。その、女が用いる化粧品のような臭いに不可解なものを感じた。

Photo_13 半四郎は、おえんという娼妓を馴染みにしていた。ここを安息の場とし、着替えをしたりする。めざす敵のことなど、とうの昔に忘れてしまい、平蔵を斃したのち、おえんと暮らそうと考えていた。

Photo_14 ある夜、平蔵をつけた半四郎は、うどん屋の二階で休息中の平蔵を襲った。うどん屋の亭主こそが、目指す敵であった。だが、半四郎はまったくそれと気付かないで二階へ上がって行った。亭主の方は、いよいよ仇を討ちにやって来た、と思い込んでいたのだ。二階で剣戟が始まったが、不意を突かれた平蔵の方が分が悪く、もはやと思われた刹那、亭主が背後から出刃包丁で半四郎を刺し殺してしまった。

Photo_15 平蔵は、今夜の半四郎は殺したくなかった……、と最後に呟く。

 私も、出来ることなら平蔵襲撃を諦め、おえんという女と平穏無事に暮らすという道を選んで欲しかったのですが、武士の意地なのでしょうか……、切ない幕切れでした。
 

【中村吉右衛門版】近藤正臣(金子半四郎) おえん(西川峰子) 牟田悌三 (利右衛門)

 (第七話と第八話が前後してしまいました。失礼いたしました。)

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鬼平犯科帳 '69 第八話

密 偵(いぬ)

Photo監督: 小野田嘉幹  原作: 池波正太郎  脚本: 井出雅人 名倉勲

出演: 松本幸四郎 [八代目] (長谷川平蔵) 竜崎勝 (酒井祐助) 堺左千夫 (伊三次) 山田市太郎 (池田駿介) 市川五百蔵 (竹内孫四郎) 北村陽一郎 (山崎国之進)

ゲスト: 近藤洋介 (弥市) 中谷一郎 (乙坂の庄五郎) 横森久 (縄ぬけの源七) 片山真由美 (おふく) 古谷一行 (清藏) 榎本みつえ (おさい) 関口銀三 (玄斉) 山本清 (伊助)

Photo_2【ものがたり】 石を抱かされて厳しい詮議を受けている“青坊主の弥市”(近藤洋介)は、荒金の仙右衛門の盗人宿を死ぬ気で義理を立て、どうしても吐かない。が、呵責ない平蔵の責めに、とうとう口を割ってしまう。火盗改メが捕縛に向かったが、十七人の盗人のうち“縄抜けの源七”(横森久)だけ網をくぐり逃亡した。

Photo_3 一膳めし“ぬのや”の亭主弥市(近藤洋介)は、店の前を通りかかった行商人の男から「久し振りだなぁ、青坊主の……」と小声で声を掛けられ驚いた。この男、乙坂の庄五郎 (中谷一郎) といい“野兎の角右衛門”一味の盗人である。五年前、荒金の仙右衛門を火盗改メに売った話を蒸し返され弥市はムッとする。が、縄抜けの源七が江戸に舞い戻っているから気をつけなよ、と聞かされた。裏切った弥市を探し命を狙っている、というのだ。庄五郎は七年前、浅草で伝七という岡っ引きに捕まりそうになった時、弥市に助けて貰った借りがあるので源七には密告しない、という。だが、「これで、貸し借りは無しだ!」といい残して去った。

Photo_4 弥市は、店の商いもそこそこにして出て行き、しばらくすると向かいの道中物揃えの店“遠州屋”から菅笠をかぶり何処かへ出て行くのを、店の手伝い“おさい”が怪訝な顔つきで見ていた。

 火盗改メ役宅の酒井祐助へ“瓢箪や”といううどん屋から火急の用件という知らせが入った。急ぎ出向くとそこには火盗改メの密偵になっていた“弥市”が待っており、その口から“縄抜けの源七”が江戸に舞い戻っている、という報告を受けた。祐助は弥市の表情の暗さが気になっていた。源七に命を狙われているのも一つの理由だが、仲間を裏切って火盗改メの密偵(いぬ)に成り下がっている今の身上に後ろめたさを感じていたのだ。 

Photo_5 その夜、店に帰った弥市は留守中の店の繁盛振りなどを聞いたりして普段と変わりなく立ち振る舞っていたが、まだ数人の客がおり、その中に弥市の帰りを気を揉んで待っていた庄五郎も混じっていた。勘定を払い出て行く時に書き付けを弥市に渡す。翌朝、呼び出された“舟源”へ行ってみると、貸し舟の中で待っていた庄五郎は、夜兎一味から外れてしまっていて、腕の良い錠前外しが足らないのだという。盗人の手助けをきっぱり断る弥市に、代わりに源七の居所を教えようといい、「源七にお前の事を喋ったらどうなる……」と脅すのであった。このとき、舟の艫で煙草を吹かしていた船頭こそ“縄抜けの源七”である。つまり、庄五郎と源七は連んで弥市に盗人の片棒を担がせ、錠前外しの用が済めば“荒金の仙右衛門”一味の敵討ちも果たそうと仕組んだのであった。

Photo_6 庄五郎に呼び出され、おんぼろ長屋の建ち並ぶうちの一軒に入ると、仲間五人と庄五郎が待っていた。その場で蝋型を渡され、用意された道具で合い鍵を作らされるが、鍵は渡さず当日持って行くと言い出す。仲間の内の一人が押し込み先に入っていて、当日裏木戸を開けておく段取りになっていた。言い出し渋る庄五郎から弥一が聞き出すところによると、明後日の三ツ半、日本橋小網町三丁目の線香問屋“戎(えびす)屋”へ押し込むという。集まる盗人宿は、へっつい河岸の小料理屋“巴”で、総勢十二人で決行するという。

Photo_7 一日中、店を空けた弥一を火盗の酒井と山田が待っていた。どこで何をしていたのかを尋ねても、「何もありゃしません」と頑なに口を閉ざしたままである。翌々日、隠し持っていた匕首を懐に、女房・子供に未練を残しながらも弥一は店を出た……。が、毎夜路地に潜伏していたはずの火盗改メは姿を消していたが、向かいの二階から平蔵らが弥市の動きを逃さず見張っていた。弥市を付けて行くと、小料理“巴”の裏木戸からそっと入っていった。早速、平蔵は山田に言い付け火盗改メに集合をかけさせた。

Photo_8 巴の一室で庄五郎に鍵を渡し、源七の居所を尋ねると隣の部屋の襖が開き、そこに刀を手にした源七が立っていた。罠だと気づいた弥市は、寄ってたかって嬲り殺しにされるのであった。その直後、到着した火盗改メによって庄五郎、源七らは殆どの者が斬殺、捕縛されたのである。

【あとがき】井出雅人、名倉勲による脚本であるが、ストーリー展開が読めてしまうのが、おしい気がします。悪党は知恵が回り過ぎて“足下をすくわれる”という気がしますが、あまりにもストレートな悪党どもです。弥市も簡単に罠にはまってしまいすぎます。

 しかし、中谷一郎という役者さんは実に渋いですね。東野英治郎主演の長寿番組“水戸黄門”で“風車の弥七”を演じていた方です。悪役を演らせれば凄い凄味があります。

 また、若い頃の古谷一行さんも一善めしや“ぬのや”の板前役で出演しています。 
 

Photo_9 中村吉右衛門版では、第四部・第五巻・第七十六話 密偵(いぬ第七十五話 霧(なご)の七郎とカップリングされています]。ゲスト出演: 本田博太郎 友里千賀子 横光克彦 小島三児 片桐竜次 日向明子ら。新旧ともにあらすじは同じです。

Photo_10 原作のプロローグの一節をご紹介します:  「ぬのや」の弥市は、その男の顔を見たとき、さすがに胸がさわいだけれども、あわてて顔を隠すようなまねはしなかった。そのとき、下谷・坂本三丁目の一善めしや「ぬのや」の亭主である弥市は、夕方から夜にかけての客にそなえての仕込みを終え、客の絶えた店の土間をぬけ、表通りへ出たところであった。

という書き出しで物語は始まっています。

 (カラー画像2枚は、DVDからの転用です)

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鬼平犯科帳 '69 第六話

本所、桜屋敷

Photo監督: 高瀬昌弘  原作: 池波正太郎  脚本: 井出雅人

出演: 松本幸四郎 (長谷川平蔵) 竜崎勝 (酒井祐助) 河村憲一郎 (彦十) 加東大介 (岸井左馬之助)

ゲスト: 浜木綿子 (おふさ) 井上昭文 (小川や梅吉) 武藤英司 (服部角之助) 二見忠男 (丑五郎) 西川敬三郎 (文治郎) 入江若葉 (平蔵の妹・みふゆ)

Photo_2【ものがたり】 平蔵はその昔に盟友の岸井左馬之助と腕を競い合った高杉道場の隣りに、それは見事な桜が咲き誇る桜屋敷とよばれた大庄屋があり、桜屋敷のお嬢様“おふさ”をめぐって恋の争奪戦を展開したものだったが、その“おふさ”は今ではすっかり身を持ち崩し、御家人の妻になっていた。

Photo_3 おふさは町家へ嫁いだが、数年で亭主が急逝してしまい、邪魔になったおふさは、縁者に寄ってたかってとうとう呉服問屋“近江屋”から追い出されてしまった。おふさは一度懐妊したが流産してしまい、悪いことは重なるもので亭主が外出先で不慮の事故に遭い、一年を待たずに他界してしまった。その後は、子供がいないことを理由に亭主の弟が店を継ぎ、本所の桜屋敷も近江屋の縁者たちによって勝手に人手に渡ってしまい、おふさは帰る先もなくされてしまった。後にその怨みを晴らすべく、盗人の“小川や梅吉”を唆(そそのか)し、押し込みを計画するのだ。

Photo_4 丑五郎という男が火盗改メ役宅へ“小川や梅吉”を見た、と密告してきた。早速平蔵は丑五郎からそのいきさつを聞き出すが、武家屋敷が建ち並ぶ一角まで後を付けたが忽然と姿を消してしまった、という。実は無頼の御家人“服部角之助”の屋敷で開帳される賭場へ出入りしてい、その屋敷の内儀が“おふさ”であった。

 小川や梅吉は、数軒の押し込み先で家人を皆殺しにし、数千両を強奪した罪により、先年処刑された盗賊“野槌の弥平”一味の参謀格であったが、一人捕縛を逃れ消息を絶っていたため、火盗改メは必死に行方を追っていたのである。

Photo_5 平蔵と酒井は市中見回りの途中、茶店で一休みしていたところ、喧嘩騒ぎがあった。茶店の主人によると、近頃は無役の御家人屋敷がヤクザの巣となり喧嘩沙汰が絶えないという。その時、“服部角之助”という名を主人から聞いたのである。酒井が様子を窺うとゴロツキどもにいたぶられていたのは、むさ苦しい酔った老人で、平蔵が二十年前“本所の鐵”と呼ばれ放蕩無頼を重ねていた頃の取り巻きの一人であった。(この作品“相模の彦十”(河村憲一郎)の登場である)

 喧嘩の仲裁に入ったサンピン(酒井)が気に入らないと、兄貴株の丑五郎を連れて戻ってきたゴロツキどもであったが、丑五郎は相手が火盗の長谷川平蔵と酒井祐助であることが分かると、これは喧嘩にならぬと一目散に逃げ帰ってしまう。

 その戻り道、平蔵は酒井を伴い懐かしい桜屋敷跡に立ち寄ってみると、背後からいきなり斬りつけた男がいた。なんと竹馬の友“岸井左馬之助”の戯れ事であった。岸井は近くの押上村の春慶寺の離れに住んでおり、十日に一度ほど桜屋敷跡を訪れるのだと告げた。左馬之助が、おふさが近江屋を出されたこと、今では御家人服部角之助の内儀であることなどを口にすると、平蔵の顔色が変わった。

Photo_6 彦十は、服部角之助の屋敷内の賭場へ小川や梅吉を目当てにやってきた。はたして梅吉はそこに居た。彦十は落ちぶれ果てた自分にも昔と変わらぬ厚情をかけてくれた事が身に沁みてうれしく、「鐵っぁんの為に役に立ちたい。こんな干からびた命など捨てたってかまやしない。」と密偵の真似事をしているのだった。

 ある晩、くだんの賭場で様子を窺うと浪人者が数人連れだって離れの座敷に入っていく。中では小川や梅吉、服部角之助、おふさ達が、近江屋への押し込みの手筈を相談していた。だが探りを入れようと深入りしすぎて捕らわれてしまった。火盗改メへ小銭欲しさに梅吉を密告した丑五郎が、「この爺は、火盗の密偵(いぬ)ですぜ」と梅吉に告げ口する。そして、翌朝彦十の死体が発見され、火盗改メにもその事が知らされた。駆けつけた平蔵は彦十の屍に手をあわせ、きっと敵は討つと心に誓う。そして、火盗改メ全員を招集し服部角之助屋敷へ踏み込む触れを出した。

 その夜、踏み込んだ平蔵は、「刃向かう者は斬り捨てろ!」と火盗全員に檄を飛ばした。こうして、小川や梅吉一味は捕縛され、梅吉は死罪、おふさは遠島になるのだが、左馬之助はおふさを解き放して欲しい、と平蔵に哀願するが、それは叶えられない。どうしても信じられないという左馬之助は、変わり果てた白州でのおふさを垣間見て涙する。

Photo_7【あとがき】 薄幸の女と言うよりは、伝法でふてぶてしい雰囲気のするおふさ役は浜木綿子の得意とするところ。中村吉右衛門版では、萬田久子が演じたが、これも良かった。

 この作品では、たった一回の出演で殺されてしまった相模の彦十であるが、中村吉右衛門版での彦十(江戸家猫八)は、以降の作品にも毎回登場する。

 また、松本幸四郎版では伊左治が良く登場しますが、吉右衛門版では、小房の粂八の登場回数の方が格段に多いようです。

 岸井左馬之助という平蔵の盟友は、レギュラー出演者ではなく、新旧どちらも準レギュラーというゲスト出演に近い存在です。

【中村吉右衛門版】萬田久子(おふさ) 江守徹 (岸井左馬之助) 江戸家猫八(相模の彦十) 中村又右衛門

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鬼平犯科帳 '69 第五話

Photo第五話 怪談 さざ浪伝兵衛

監督: 小林恒夫 原作: 池波正太郎(文藝春秋/オール読み物連載) 脚本: 野上龍雄

出演: 松本幸四郎 (長谷川平蔵) 竜崎勝 (酒井祐助) 市川五百蔵 (竹内孫四郎) 北川陽一郎 (山崎国之進) 遠藤征慈 (村松忠之進)

ゲスト: 前田吟 (さざ浪伝兵衛) 見明凡太郎 (砂堀の蟹蔵) 白石奈緒美 (おだい) 菱目百合子 (お春) 長島隆一 (三村敬之進) 西村淳二 (源次) 矢野昭 (喜作) 成田次穂 (吉三)

Photo_2【ものがたり】  甲州無宿、さざ浪伝兵衛(前田吟)。幼い頃より水練に長じ、また十六才より村相撲で大関を張った怪力の持ち主で性格粗暴。さらに、砂堀の蟹蔵(見明凡太郎)の二人が、箱根に近い喜勢川という場所で、巡礼の老婆と女を追っている。女は伝兵衛によって川で絞め殺され、老婆は蟹蔵によって匕首で刺し殺された。……水から上がった伝兵衛は、その場に置き去られた女の赤児を見下ろしながら、悠々と飯を食らっていた……。

Photo_3 享保三年九月に起こった喜勢川の巡礼殺しより十八年後の七月、江戸に舞い戻った伝兵衛は、芝神明の質屋“伊勢屋”に押し入り主人を殺して三十両余りを強奪、明けて八月神田二丁目袋物屋“叶屋”夫婦を絞め殺し、同月本郷ゆみ坂小料理屋“満月”方に押し入り、仲居ら二名を陵辱……、と非道な悪事を重ねた。

Photo_4 深川八幡の小料理屋の女“おだい”(白石奈緒美)をさざ浪伝兵衛の囲い者と突き止めた火盗改メは、西国の伯母の病気見舞いと称し旅に出るおだいを酒井と竹内の両名が尾行する。道中何もないかに見えた駿州・島田宿で川止めに遭った。

Photo_12 女馬子の“お春”(菱美百合子)に、大井川は十日間も川止めであることを告げられ、“しころや”という旅籠を紹介される。その晩、この一室でおだいの情夫・お役者吉三(成田次穂)と伝兵衛を嵌めるための相談をしているが、この旅籠は伝兵衛の仲間、砂堀の蟹蔵により、おだいが泊まるように段取りされていたのだった。伝兵衛が部屋に入って来るのを察知した吉三は素早く逃げ去った。

Photo_7 その頃、酒井は番屋で役人・三村敬之進(長島隆一)に川止めによって“さざ浪伝兵衛”が当地に潜伏している公算が大であることを告げ、宿改めを依頼しているところへ投げ文によって伝兵衛が旅籠“しころや”に宿泊している事が判明する。その宵に伝兵衛捕縛のために夜襲するが、まんまと逃げられてしまった……。それを物陰より覗っていた吉三は、「ふんっ、冗談じゃねぇや! 田舎役人め……」と歯噛みするのであった。

Photo_14 逃走に成功した伝兵衛であったが、捕り物の際に目つぶしによって目を痛めてしまった。宿外れの寺の小屋に住む蟹蔵の家まで逃げ着き、傷ついた体が癒えるまで匿われることになる。このような目に遭ったのは、以前小伝馬町の牢で蟹蔵と一緒だった、お役者吉三とおだいが、自分を売ったのだ! と察しがつき、怒りをあらわにする伝兵衛。「きっと、おだいのアマと吉三はバラしてやる!」と言い放ち、蟹蔵にも助力を頼むのだった。

Photo_15 蟹蔵は、この宿に流れ着いてから堅気になり、ここで生涯を穏便に過ごすつもりであったのだが、今回の騒ぎによって又他国へ逃げなければならぬ身の上の因果を感じていた。その夜、またしても蟹蔵は、昔殺した巡礼の老婆の亡霊によって目を醒まされてしまう。以前から老婆の亡霊に悩まされていた蟹蔵は匕首を振り回しながら林の中を彷徨っている。

 逃走経路を確保するため蟹蔵は、お春に金を渡し、舟を用意して伝兵衛と蟹蔵の二人を乗せて川を越える手筈を整えるように頼むが、川止めであり川番所の役人に知れたらと案ずるお春であったが、恩ある蟹蔵のためにと承知した。なぜ手伝う気になったのかを蟹蔵に伝えるお春は、「以前、馬子仲間に“捨て子”とからかわれた時に蟹蔵は“捨て子のどこが悪い、俺だって捨て子だ”といってお春を庇ってくれたことを忘れないでいたのだ。また、私は捨て子ではないと言いだし、母親は18年前に旅先の喜勢川という場所で殺され、近くの村で七才まで育った、と言うのであった。……驚いた蟹蔵は、身の因果を思わずにはいられなかった。

Photo_9 島田宿に到着した平蔵は、おだいが“しころや”に泊まったのは偶然ではあるまい、と感じていた。伝兵衛の他に誰か……、という呟きを聞いていた宿役人の三村は、「お春という者から聞いた」と言っている、と平蔵に告げる。お春は別段怪しい娘ではなく、身寄りがなく十年以上も真面目に馬子として働いている、ということであったが、宿外れの小屋に住む、やはり身寄りのない老人とウマが合い仲良くしている、という。平蔵の勘働きは、この年寄りに目を付けた。また平蔵は、「川番所に分からぬ場所に舟を着けるとすれば、何処か?」と問うていた。

Photo_10 早速、酒井が小屋に出向くと、そこには“さざ浪伝兵衛”と記された菅笠が掛けてあり、その脇には殺された“吉三”の死体が吊されていた。その夜、旅籠“しころや”で火事さわぎがあり、それに乗じて現れた伝兵衛と蟹蔵。伝兵衛によっておだいは絞め殺されており、壁には“さざ浪伝兵衛”の文字が残されていた。

 霧のかかる川辺りまで逃げ、そこからお春の用意した舟で逃走をはかる手筈である。そこで蟹蔵は、決してお春にだけは始末しようと思うな! と念を押した。

 そこへ、火盗改メの酒井、竹内が騎馬でやって来た。が、通り過ぎてしまったので伝兵衛は、「俺たちを追って来たんじゃねぇ」と呟く。しかし、蟹蔵はまたしても霧の中から巡礼の鈴が聞こえ錯乱した蟹蔵は、偶然にも通りかかった巡礼の女めがけ持っていた刀を振りかざし襲ってしまうのだった。それを一足遅れてやって来た平蔵は見逃さず、蟹蔵を斬って捨てた。

Photo_11 襲われた女を介抱している平蔵の背後から、伝兵衛が不意を襲い絞め殺されるかに見えたが、平蔵に反撃され伝兵衛は川へ逃げる。水練に長けた伝兵衛は川を泳いで逃げようとしていた。それを葦の間から見ていたお春は、伝兵衛を助けるつもりで川へ潜るのだが、伝兵衛は昔殺した巡礼が化けて出たものと錯覚し、不覚にも溺れかけてしまい探索に出た火盗改メの乗る舟に助けを求める。こうして伝兵衛は捕まったのであったが、捕縛された伝兵衛は、気が触れてしまっていた……。

 さざ浪伝兵衛を演じた前田吟さん。“男はつらいよ”シリーズでは、妹さくらの夫、印刷工の博(ひろし)役で有名な俳優さんですが、ヅラを付けた悪役も妙にハマっています。もっとも、駆け出しの頃には悪役を演じさせられたらしいですが……。

 伝兵衛の情婦・おだい役の白石奈緒美さんも妖艶な悪女役で多くの作品に登場しています。

 砂堀の蟹蔵役の見明凡太郎さん。この俳優さんは元大映で悪役を演じていました。大体、大映の作品にはほとんど出演していたのではないでしょうか。 

 また、娘馬子・お春役の菱目百合子さんは、ウルトラマンの地球防衛軍出身の役者さんです。

Pdvd_001【あとがき】後年に放映された、中村吉右衛門版のうち「本門寺暮雪」という菅田俊、草薙幸二郎主演による作品があります。この作品は“おどろおどろしい”と評判の作品ですが、今回の「怪談 さざ浪伝兵衛」は、タイトルに“怪談”と冠されるだけあって、まさに“おどろおどろしい”というに相応しい作品です。数ある鬼平犯科帳シリーズの中でも、“怪談”と断り書きがあるたった一つの作品です。

【中村吉右衛門版】第四部 第九巻 第八十三話として放映されました。DVDでは、第八十二話「麻布一本松」とカップリングです。出演は、又野誠二 (さざ浪伝兵衛) 織本順吉 (砂堀の蟹蔵)その他。内容はほぼ同じ展開ですが、殺した巡礼が百姓であったりして、少し違いますし、はるかに旧作の出来が素晴らしいです。

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